今月の表紙 チルドレンシリーズ『フィリピン』 Photo:Hiroshi KOIKE
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『音楽の情景または
レコード棚の記憶から』

歌を歌う、歌を聴く



『フィリピンシリーズ』
〜 子ども編 〜

小池博史ミュージックコレクションの中から選択した曲もしくはアーティストについてのエッセイ。 単なる音楽批評ではなく、情景をも喚起させる、演出家ならではの考察。

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『音楽の情景またはレコード棚の記憶から』 vol.20

歌を歌う、歌を聴く

 歌はずっと揺れ動いている。そして、歌はずっと私たちの心を映しだしてきた。

 年末の30日、カラオケに3年ぶりに行った。3年ぶりと言っても、前は門前仲町で下町兄弟と年末の打ち上げをやって、その帰りに関口満紀枝と下町さんが先導してカラオケ屋に行ったのにくっついて行っただけだったし、その前に至っては、いつ行ったか?まったく思い出せない。カラオケにはたぶん、総計でも5回くらいしか行ったことはないように思う。カラオケが好きかと問われたら、いいえ、好きじゃありません、と答えるだろう。

 ここまで行かないと、毎回、行く度に新鮮な驚きがある。カラオケの進化である。そして世界中にカラオケは輸出され、どこへ行ってもカラオケの文字が躍っている。カラオケ文化もまた、日本からの輸出文化である。
 カラオケにはたいして行ったことはないけれど、つくづく人は歌好きだと思う。そして私自身は、本当に新しい歌を知らない。なんにも分からない。聴けば、あ、こんな歌あったなあ、そう言えば、とは思い出すが、せいぜいその程度である。まったく歌が身体に染みこんでいない。


 大晦日に実家に戻った。実に20年ぶりでの大晦日の実家帰り、ついでに紅白歌合戦を同じく20年ぶりに1時間程度、見た。なんと言えばいいか、悲劇的と言ってもいいような惨憺たるありさまで、よくこんな番組を続けているものだと頭が痛くなった。理由は三つある。真っ先に、演出が全然なっていない。次に、もちろん演出と関係するのだが、司会を務める若い二人がいわゆる国民番組を引っ張れる力量がなく、審査員の方々のコメント力のなさにも驚いた。そして最大の理由は、これが国民的番組だとするならば、あまりに歌に波及力がない、つまり、国民的な求心性を歌自体が持ち得ていないということである。それを下手な演出でカバーしようとするものだから、下卑てきたり、派手さを競ったりすることになる。なんでもありは悪くはないが、なんでもありに持っていくためには、きわめて緻密な計算と作業が必要となる。しかし、そうした緻密性がまったく失われ、雑然として恥ずかしかった。歌自体の弱さと相まって、演出の空回りばかりが目立ってしまうことになった。


 今、歌われている歌を私の世代がどれだけ知っているか?もちろん昔だって、全部を知っていたわけではないだろうが、今、歌の本質が消えてしまっているように感じるのは私だけではあるまい。アジアを歩いて熱く認識するのは、日本の昔の歌と現在のアジア歌謡との相似性である。粘っこかったり、エロティックだったり、悲しかったり、そういう色が濃厚であるが、現在の日本の歌からは、こうした匂いは実に希薄になってしまった。「恋のから騒ぎ」という番組があるが、まさに恋のから騒ぎ的な歌ばかりだ。耳に心地よい、そして心にちょっと引っかかる軽い恋の歌が好き!薄っぺらい恋と薄っぺらい性と薄っぺらい生活が歌を作るのだから当然であろう。

 私は「薄っぺらい」という言葉を使った。それは、現在の文化そのものが薄っぺらくなってしまっていることとイコールである。濃いものは重いと言って遠ざける。楽で薄いものが全体に好きになっている。
 楽であるというのは、苦悩しないということでもある。しかし、楽な文化というのは、楽である程度にしか突っ込んでいかない。たった今、テレビで元民主党議員の永田氏、自殺のニュースが流れていた。偽メール事件で議員を辞職した方だ。死者に鞭打つわけではないが、なんでこの程度で、まだ40歳程度で命を絶たなければいけないのか、残念を通り越し情けなくなった。人生は順風満帆とは限らない。逆風ばっかり吹いているときだってあるのだ。

 歌にはその時代時代の雰囲気がそのまま伝わっていく。流行歌というのはそうして生まれる。今の時代、今の日本には、「濃厚さ」「苦悩」「苦痛」・・・こんなイメージはまったく遠ざけられ、なんとなくの快楽イメージだけが先行する。それはそもそも高度成長のまっただ中から始まり、今ではその完成形態としての日本人の姿がある。いつの間にか日本人はペラペラに薄くなった。ペラペラになって、表層だけを撫でて生きられればそれに越したことはないと思うようになった。しかし、身体はそういう表層だけでは納得しない魔性を秘めている。重層性を持ち、何万年もかけて作られてきた身体であるから当然である。だから、どうしても魔性の爆発が時として起こる。自分の知らなかった自分が首をもたげ出す。こんなはずじゃなかったと思い出す。


 カラオケを歌い、カラオケで人が歌うのを聞いていると、そんなことを考えてしまう。歌はやっぱり技術だけではない。技術に加えてその人の生き方や考え方が反映される。
 今の若者たちはほとんど他人と面と向かって喧嘩をしない。非難もしない。相手を傷つけないように、いや自分が傷つかないようにと気遣う。そうやってヤワな関係性を作っていく。批判のない、互いににこやかな世界こそが生きるのに楽な世界だと言わんばかりに。楽な世界に生きると、なにか大きな壁にぶつかったときに、耐えられない。だから壁にぶつからないように、挑戦することをしなくなる。
 最近、私はこういう光景を多く見ている。みんなでジャムをなめ合っているような関係性である。
 若者たちの歌を聴く。もっと激しく!もっと強く!もっとエロティックに!もっと頑丈に!もっと!もっと!もっと!と言いたくなる。そうした歌の強さはテクニックで、どうにかなるものではないのだ。根幹を変えなければ、これから生きていくことすら、難しくなるぞ、と叫びたくなる。


 先日、フィリピンへ行った。もちろん貧富の差は異常なほど激しい。しかし、子供たちはどこへ行ってもきわめて元気で、溌剌としていた。こういう子供たちを日本では今や見ることはない。足腰の弱った子供では、心まで歪み、弱くなってくる。弱くなった子供は他人に踏み込まず、自分に踏み込まれたときだけ異様なほどの力で返そうとする。あるいは内にどんどん溜め込んでしまう。私に踏み込まないで!私は・・・・!と叫ぶが、叫び声はたいてい虚しく響き渡るだけだ。
 歌は文化である。しかし、文化そのものが脆弱になったとき、さまざまな問題が不気味な形で襲ってくる。それが一体何なのか、表層だけを追いかけていると絶対に見えてこないだろう。
 歌を聴き、歌を歌い、歌に虚しさが付きまとったとき、文化そのものが大きく退廃化していることを知るべきなのである。

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小池博史撮り下ろしフォト作品より。
空間に対する独自の視点と鋭い反射神経で、瞬間を捉える才能を発揮。優れたスナップシューターと評価されている。

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 フィリピンシリーズ
〜 子ども編 〜
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パパ・タラフマラ「三人姉妹」
東京公演 先行予約情報!!


photo:Hiroshi Koike

 毎年、世界各地を巡演中の超人気ダンス作品「三人姉妹」が東京に帰って来る!
 チェーホフ「三人姉妹」を全く新しい切り口で、現代版悲喜劇として蘇らせた本作を演じるのは、白井さち子、あらた真生、橋本礼。
 各回70名様/4ステージ限りのプレミアショーとして、上演するため、見逃せません!!

★先行予約受付期間:1月17日(土)〜1月23日(金)
★一般前売発売開始:1月24日(土)〜

一般前売発売開始後、即完売してしまう可能性もあるため、観劇ご希望の方は先行予約期間中、お早めにご予約くださいませ。

詳細はこちら

期間:2009年3月4日(水)〜7日(土)
時間:3月4日(水)〜6日(金)19:30開演
   3月7日(土)14:00開演
会場:都内某スタジオ(JR中野駅より徒歩10分)
チケット:3500円(全席自由席)

※プレミアショーにつき、ご予約のお客様へのみアクセス送付予定
お問い合わせ:SAI Inc. 03-3385-2919
上演時間:約60分

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小池博史 「総合表現」創作ワークショップ

●内容
 自分を空間に立たせるためには何が必要なのか。身体のリアリティーを感じながら、動き、声、感情、様々な身体のエレメントを使って、自分自身と向き合っていくことから始めます。
 最終回では、発表会を実施!

●日時 2009年3月21日(土)22日(日)10:00〜14:00

●参加費 2回通し9,000円

●スタッフからオススメコメント!
 毎回好評の小池博史ワークショップは、『身体』を目覚めさせるきっかけになるワークショップです。初心者からプロの方まで、どなたでも参加できます。自身で演劇・ダンス等の活動をされてきた方には、より刺激的な体験、発見の場となることでしょう!

■□■ご予約方法■□■

メール:pappa-ws@pappa-tara.com
お申し込みの際は、件名に「パパタラWS予約」、本文に下記情報を
ご入力ください。
1)お名前
2)お電話番号
3)ご住所
4)参加希望日
5)情報をどこでお知りになりましたか?
 (小池メルマガ・パパタラメルマガ・チラシ・HP・口コミ・その他)

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パパ・タラフマラ舞台芸術研究所(P.A.I.)
オープンキャンパス開催!


 パパ・タラフマラ舞台芸術研究所(P.A.I.)は、1995年に、代表の小池博史 (パパ・タラフマラ芸術監督)が、舞台表現者に必要な「身体の基礎力とビ ジョンを獲得」できる場として、設立された学校です。
 今回のオープンキャンパスでは、『観る・知る・動く』3つの体験により、 P.A.I.の学校プログラムと、舞台芸術の楽しみに触れていただければと思います。

(1)観る⇒「SHIP IN A VIEW」公演のリハーサル見学
(2)知る⇒P.A.I.の学校プログラム、理念のご紹介
(3)動く⇒実際に、声を出し、身体を動かすワークショップ体験

 ぜひ一度、ワークショップ、リハーサル現場を体験し、学校の雰囲気を肌で感じてみてください。
 第一線で活躍するアーティスト陣が、あなたをお待ちしています! お気軽にご参加ください!

★ 入学を考えている方々のみならず、身体表現に興味のある方、 ワークショップをお考えの学校教員の方、文化事業をご検討中の自治体、 企業のご担当者様も、ぜひご参加をお待ちしております。

※稽古場見学は、2009年2月にサンフランシスコにて上演予定の 「SHIP IN A VIEW」リハーサル現場をご覧いただきます。
※ヴォイスワークショップは約1時間の予定です。

◆第1回:2009年2月14日(土)14:00〜16:30頃
  会場:南中野地域センター洋室4 中野区南台3-6-17

◆第2回:2009年2月15日(日)15:30〜18:00頃
  会場:新井地域センター洋室2 中野区新井 3-11-4

◆内容:学校説明会・稽古場見学・ヴォイスワークショップ
◆対象:身体表現に興味のある方、P.A.I.入学希望者、学校、自治体等で ワークショップ・文化事業等の企画ご担当の方
◆受講料:2,000円(1日)

※ご希望のお日にちをお選びください
※ワークショップ・稽古場見学のみのご参加も可能です。ご相談ください。
【ご予約・お問い合わせ】
パパ・タラフマラ舞台芸術研究所(P.A.I.)事務局
Tel 03-3385-2066 Fax 03-3319-3178
E-mail pai@pappa-tara.com

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パパ・タラフマラ舞台芸術研究所(P.A.I.)
第15期生募集!

 演劇・ダンスをはじめ、舞台芸術のどのジャンルにも必要となる体の基礎力、 ビジョンを獲得しましょう。短期間で集中して身につける、独自のカリキュラム!

【期間】 2009年5月〜2010年4月の1年間 
※月・火・木・金曜日(水・土・日は休み)

【選考日程】
2009年2月28日(土)・3月28日(土)・4月12日(日)
※応募締切は選考日の一週間前(必着)

【募集要項請求先・お問い合わせ】
P.A.I.事務所 Tel.03−3385−2066 
E-mail:pai@pappa-tara.com
【所在地】〒165−0026 東京都中野区新井1−1−5−1F
URL:http://pappa-tara.com/pai/

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パパ・タラフマラ 公式サイト

小池博史 公式サイト
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発行・H island編集 大久保有花