今月の表紙 アニマルシリーズ『フィリピンの犬』 Photo:Hiroshi KOIKE
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『音楽の情景または
レコード棚の記憶から』

ブルース前哨戦



『フィリピンシリーズ』
〜 子ども編 その2 〜

小池博史ミュージックコレクションの中から選択した曲もしくはアーティストについてのエッセイ。 単なる音楽批評ではなく、情景をも喚起させる、演出家ならではの考察。

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『音楽の情景またはレコード棚の記憶から』 vol.21

ブルース前哨戦

 ブルース。本来の読みだとブルーズである。が、日本ではブルーズよりもブルースが馴染んでいるのでここではブルースと書くことにする。
 今、ぼくが最も親しんでいるのがブルースだ。思い返せば、ブルースという名前の音楽には、さまざまな形で親しんできてはいた。だが、アメリカ音楽のルーツとして存在したエッセンスとしてのみのブルース(要素)だったり、歌謡曲で呼ばれたブルースだったりして、本物のブルースではなかった。そもそもジャンルなどはどうでも良いと思っている方だから、なにも本物のブルースにこだわる必要はどこにもないのだけれど、この本物のブルースに嵌ると、とてもとても抜けられない。強烈な魅力が花開き、手招きして、芳醇なブルース天国に誘ってくれる。それをちょっとばかり今日は紹介したいのだが、長くなってしまうので、ブルースに至るまで、ということで今回は終わりになるだろう。

 ちょっと外れるが、最近しみじみアメリカ音楽は面白いと感じている。アメリカ音楽には強烈な変化への意思と自分たちのアイデンティティを求めていこうとする強い生命力を感じさせる魅力があるのだ。なぜそんな魅力が生まれたのか?それは急激に多様な文化が混じり合ってできていった場所だったからだろう。産業構造や社会構造、民族の多様化という変化に富む変化が19世紀以降、アメリカに新しい音楽を作り出していったのだ。ブルース、カントリー、ロック、ジャズ・・・・・もちろんこんな程度の分類では収まらない多様性がある。アメリカの音楽は20世紀の音楽史でもあるわけだからつまらないわけがない。商業主義的な音楽が大量に生み出されたと同時に、新しいアイデアを持った音楽もまた同時に次々と生み出され、アメリカという国の浅さと深さを同時にボクたちは体験してきたのであった。

 ブルースは、アメリカに奴隷として連れてこられた黒人たちが生み出した黒人による黒人のための音楽のイメージがあるが、実際にはたぶん、黒人霊歌、ワークソングなどに加え、白人音楽などが混沌としつつ、複合的に生まれていったのだろうと思う。でなければ、白人たちが驚喜しては、こぞってコピーし、白人によるブルースが生まれることなどなかっただろうし、それがロック音楽へと変化していくことなどなかったと考えられるからだ。白人たちすら魅惑する要素と白人自身に繋がるサムシングを発見したからこそ、ブルースはさまざまな音楽に影響を与えることを可能にしたのだろう。一方、カントリーミュージックという白人のための音楽も白人サイドにはあったが、カントリーもまた、同様にブルースの匂いが強く漂ってくる。ウディガスリーのカントリー音楽には、いかにも白人がブルースをやっているように感じる曲さえあるのである。

 断っておくが、ボクは研究家ではないので、正確な情報を調べた上で書いているわけではない。感覚とうろ覚えの知識で書いているから、お叱りを受けるかも知れないし、当たり前のことをさも知った風に書いていると鼻白む方々もいるかも知れないが、そこは無知ゆえの涙だと思ってお許し頂きたい。

 ブルースと言っても、多くの日本人にはピンと来ないと思う。ブルース・・・伊勢佐木町ブルースなら知ってるぜ・・・程度か。あるいは、ローリングストーンズ、オールマンブラザーズバンド、ポールバターフィールド、クリデンスクリアウォーターリバイバルなど多くの白人ロックバンドが強くブルースの影響を受けてきたという音楽的知識だろう。白人ブルースロックには親しんでも実際にブルース音楽には親しんだことがなかったり、白人ロックバンドがカバーしたブルース曲を知っている程度ではないか。ブルースは何だ?と問われてもはっきりとしたことは言えずなんとなく分かった気になって使ってはいるが、実は全然知らないという音楽リスナーが多いだろう。

 そもそも日本では淡谷のり子や青江三奈の音楽のタイトルにブルースと付けてしまったのが、誤りの元であった。「窓を開ければ、港が見える。メリケン波止場の日が見える。夜風、潮風、恋風寄せて・・・」「雨が降る降る アパートの窓の娘よ、何、思う。ああ、銀座は暮れ行くネオンが揺れる・・・」「あなた知ってる、みなと横浜、街の明かりに潮風吹けば・・・ドゥドゥビドゥビドゥバドゥビドゥバ、灯が灯る」「会えば別れがこんなに辛い、会わなきゃ、夜がやるせない・・・あああんあん、切ない長崎ブルースよ」歌詞からすぐに推測できるようなムーディーな音が出てくるだろう。このようなムードブルース歌謡を、私は若かりし頃、お化け歌謡と呼んでいたものだった。それは淡谷、青江という何とも奇怪な顔つきをした歌手がデロリ、ドロリ、ダラリと歌い上げる曲であったからで、これぞブルースと音楽なんだ、と思い込んだのが子供の頃だったからだ。(だが、淡谷のり子の年を取ってからの顔しか知らなかったから、こんなことが言えたのであって、若かりし頃の淡谷の写真はまるで違う。エロティックな風貌で、ドキリとさせられ、太地喜和子のような強い魅力を湛えていたのであった。)

 これが日本人の、いやオレの、かな、ブルース理解の障害となったと思う。なんだよ、あのムード歌謡かよ、と言いつつも、実はそれらねちっこいムード歌謡から離れられなくなってしまっていた。青江三奈にほとんど中毒状態。別にブルースを歌うという感じではないちあきなおみのような歌手にもオレはいかれて、デロリグループの一員に勝手にしていたのだった。いや、これまた好きというよりも麻薬的陶酔感があって、「いつものように幕が開き・・・」とやられると、その激情にうっとりとさせられたもんである。粘っこさ、ねちっこさ、ため息混じりの歪んだ哀愁、哀切・・・どう見たって、男の作詞家が書いたものを女に歌わせて喜ぶ、妙なエロティシズムが歌に入り込んでいるから、健気なデロリ女が一所懸命に歌う悲しさがあって、グイグイと引き込まれ、笑いと涙が一緒に襲ってくるような歌謡であった。

 しかし、日本のブルースは実はまったくアメリカの本物のブルースとは似ても似つかない代物で、なんでブルースと名付けたかさえ、オレには定かではない。地の底からはい出てくるような女のイメージが虐げられた奴隷と一緒になって、なんとなく本場ブルースを感じさせたからだろうか?さっぱり分からない。

 さて、中学から高校に上がる頃になって、強烈にジャズに惹かれていった。その前哨戦として存在したのがクリーム。エリッククラプトン、ジャックブルース、ジンジャーベイカーのトリオによるグループがあった。特にクラプトンのギターには、いっとき、惹かれまくって口まねアドリブなどして遊んだ。彼らもまた、ブルースの曲を多く演奏していた。たとえば「スプーンフル」。これはずいぶんあとになってから聴いたホンマものの「スプーンフル」に比べると、今思えば、やっぱり何とも軽い。白人が真似っこして、なにか一所懸命になぞっている感じだった。もちろん当時は、それが良く、それが入り口には適当だったのだ。黒人のシカゴブルースなどは、重く、黒く、強烈すぎて、ちょっと入れなかったのである。ドロリとし過ぎて、ウーンとは唸っても、唸って終わり、とても何度も聞き返すことはできなかった。

 昔、日本には憂歌団というブルースグループがあった。彼らの音楽にも少し心惹かれ、そして、すぐに飽きた。面白いが、やっぱり後々に聞いた黒人のブルースに比べると、なんと言えばいいか、別ものだった。これが悪かった。ブルースとはこんなものか、と思ってしまったのである。ブルース。なんとも魅惑的な言葉で、どっぷりと嵌りたいのだが、嵌ろうとするとその重厚さに打ちのめされて、撤退するのが慣わしであった。その一方、白人ブルースや日本人ブルースもどうも仮の宿的感じがし、やはりどうも嵌らない。ところが、そこで再び青江や淡谷になるが、彼らの歌はブルースではないとしても、ブルースフィーリングは持っていて、だからやっぱり本物感がギラギラし、実に魅惑的であった。本物の厚味が、顔に塗られた厚化粧とともにどっぷりとあって、バケモノじみて良かったのである。

 ここまでがブルースを聴くまでの前哨戦である。おっと。ジャズとブルースについて触れるのを忘れた。が、ジャズのことを書き出すと止めどなく流れそうだから、やめておく。
 もうひとつ。チャックベリーやボ・ディドリー、レイチャールズと言った、どう言えばいいか分かりにくい面々もいた。それに加えるとすればメンフィス出身のエルビスプレスリーも入れておかねばなるまい。
 このブルースからロックンロールへと至る道にいた人たちにもいっとき相当、惹かれたが、ボクにはどうしてもジャズの方が魅惑的で、これらはまるで寄り道のように立ち寄っただけで、さほどのめり込みすぎることなく、心ときめかせながらも、ジャズへの道をまっしぐらに走っていったのがボクの10代から20代であった。

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小池博史撮り下ろしフォト作品より。
空間に対する独自の視点と鋭い反射神経で、瞬間を捉える才能を発揮。優れたスナップシューターと評価されている。

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 フィリピンシリーズ
〜 子ども編 その2 〜
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パパ・タラフマラ「三人姉妹」
東京公演情報!!


photo:Hiroshi Koike

 毎年、世界各地を巡演中の超人気ダンス作品「三人姉妹」が東京に帰って来る!
 チェーホフ「三人姉妹」を全く新しい切り口で、現代版悲喜劇として蘇らせた本作を演じるのは、白井さち子、あらた真生、橋本礼。
 各回70名様/4ステージ限りのプレミアショーとして、上演するため、見逃せません!!

詳細はこちら

期間:2009年3月4日(水)〜7日(土)
時間:3月4日(水)〜6日(金)19:30開演
   3月7日(土)14:00開演 (完売しました!)
会場:都内某スタジオ(JR中野駅より徒歩10分)
チケット:3500円(全席自由席)

※プレミアショーにつき、ご予約のお客様へのみアクセス送付予定
お問い合わせ:SAI Inc. 03-3385-2919
上演時間:約60分

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小池博史 「総合表現」創作ワークショップ

●内容
 自分を空間に立たせるためには何が必要なのか。身体のリアリティーを感じながら、動き、声、感情、様々な身体のエレメントを使って、自分自身と向き合っていくことから始めます。
 最終回では、発表会を実施!

●日時 2009年3月21日(土)22日(日)10:00〜14:00

●参加費 2回通し7,000円(料金改定しました)

●スタッフからオススメコメント!
 毎回好評の小池博史ワークショップは、『身体』を目覚めさせるきっかけになるワークショップです。初心者からプロの方まで、どなたでも参加できます。自身で演劇・ダンス等の活動をされてきた方には、より刺激的な体験、発見の場となることでしょう!

■□■ご予約方法■□■

メール:pappa-ws@pappa-tara.com
お申し込みの際は、件名に「パパタラWS予約」、本文に下記情報を
ご入力ください。
1)お名前
2)お電話番号
3)ご住所
4)参加希望日
5)情報をどこでお知りになりましたか?
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パパ・タラフマラ舞台芸術研究所(P.A.I.)
オープンキャンパス開催!


 パパ・タラフマラ舞台芸術研究所(P.A.I.)は、1995年に、代表の小池博史 (パパ・タラフマラ芸術監督)が、舞台表現者に必要な「身体の基礎力とビ ジョンを獲得」できる場として、設立された学校です。
 今回のオープンキャンパスでは、『観る・知る・動く』3つの体験により、 P.A.I.の学校プログラムと、舞台芸術の楽しみに触れていただければと思います。

(1)観る⇒「SHIP IN A VIEW」公演のリハーサル見学
(2)知る⇒P.A.I.の学校プログラム、理念のご紹介
(3)動く⇒実際に、声を出し、身体を動かすワークショップ体験

 ぜひ一度、ワークショップ、リハーサル現場を体験し、学校の雰囲気を肌で感じてみてください。
 第一線で活躍するアーティスト陣が、あなたをお待ちしています! お気軽にご参加ください!

★ 入学を考えている方々のみならず、身体表現に興味のある方、 ワークショップをお考えの学校教員の方、文化事業をご検討中の自治体、 企業のご担当者様も、ぜひご参加をお待ちしております。

※稽古場見学は、2009年2月にサンフランシスコにて上演予定の 「SHIP IN A VIEW」リハーサル現場をご覧いただきます。
※ヴォイスワークショップは約1時間の予定です。

◆第1回:2009年2月14日(土)14:00〜16:30頃
  会場:南中野地域センター洋室4 中野区南台3-6-17

◆第2回:2009年2月15日(日)15:30〜18:00頃
  会場:新井地域センター洋室2 中野区新井 3-11-4

◆内容:学校説明会・稽古場見学・ヴォイスワークショップ
◆対象:身体表現に興味のある方、P.A.I.入学希望者、学校、自治体等で ワークショップ・文化事業等の企画ご担当の方
◆受講料:2,000円(1日)

※ご希望のお日にちをお選びください
※ワークショップ・稽古場見学のみのご参加も可能です。ご相談ください。
【ご予約・お問い合わせ】
パパ・タラフマラ舞台芸術研究所(P.A.I.)事務局
Tel 03-3385-2066 Fax 03-3319-3178
E-mail pai@pappa-tara.com

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パパ・タラフマラ舞台芸術研究所(P.A.I.)
第15期生募集!

 演劇・ダンスをはじめ、舞台芸術のどのジャンルにも必要となる体の基礎力、 ビジョンを獲得しましょう。短期間で集中して身につける、独自のカリキュラム!

【期間】 2009年5月〜2010年4月の1年間 
※月・火・木・金曜日(水・土・日は休み)

【選考日程】
2009年2月28日(土)・3月28日(土)・4月12日(日)
※応募締切は選考日の一週間前(必着)

【募集要項請求先・お問い合わせ】
P.A.I.事務所 Tel.03−3385−2066 
E-mail:pai@pappa-tara.com
【所在地】〒165−0026 東京都中野区新井1−1−5−1F
URL:http://pappa-tara.com/pai/

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パパ・タラフマラ新作公演
「パンク!ドン・キホーテ」オーディション

 強い意志と実力ある役者・パフォーマーを広く募集!!
 2009年12/11〜20に東池袋あうるすぽっとで上演予定の「パンク!ドンキホーテ」のキャストオーディションを実施します。
 応募〆切りは、2月21日(土)必着。

詳細はこちら

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パパ・タラフマラ 公式サイト

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発行・H island編集 大久保有花