今月の表紙 アニマルシリーズ『フィリピンの豚』 Photo:Hiroshi KOIKE
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『音楽の情景または
レコード棚の記憶から』

まずは聴いてみようじゃないか!



『アメリカシリーズ』
〜 後姿編 〜

小池博史ミュージックコレクションの中から選択した曲もしくはアーティストについてのエッセイ。 単なる音楽批評ではなく、情景をも喚起させる、演出家ならではの考察。

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『音楽の情景またはレコード棚の記憶から』 vol.22

まずは聴いてみようじゃないか!

 前回、ブルースに至るまでを書いた。しかし、どうもまだまだブルースに至ってすらいないのを実感する。遙かなブルースへの道のりの途上にいて、まだまだ入り口くらいにしか立ってないのだ、オレは。あらら、ブルースについて書こうなんて、なんと無謀なことをしたのだろうと今さらながら後悔している。オレがブルースについて書ける程、知っちゃあいないのだ。失敗した。かといってジャズは、なんとなく長い長い年月聴き続けてきてしまっているから、どうもわざわざ書く気が起きず、ブルースはそう言う意味では、今、オレの中で一番燃えさかっているのだから、聴いて楽しく、ついつい先走って、書こうなんて思いついてしまい、こんな結果になってしまっている。恥を忍んで言うならば、やっぱり書こうにも知識が追いついていかない、残念なことに、である。だから混沌とする。ならば、ブルースについて体系的な何かを書こうなんてことをせず、感じたままの一枚のCDやシカゴブルース、テキサスブルースのこと、あるいはオレが15年前に旅したアメリカ南部のことなどを書けば良いだけのことであろう。しかし、ブルースはそう簡単ではない。こりゃあ良いと書いてみても、いったいそれがどのように繋がって良いと感じているのか、やっぱり言葉にしようとすると詩的言語を超えて、どうしても全体的文脈が気になっていく。とは言え、体系的になど聴いてはいないから、怪しい気分ばかりが横溢していくことになる。ああ、こんなことなら70年代のブルースブームの時に次々とLPレコードを買えば良かったと思う。でも、常にフィットする時代というのがある。今が一番、オレにはピッタリときているのがブルースだからしょうがない。

 さて、文脈についてだ。たとえば、ボ・ディドリーについて書こうとしよう。この人はブルースとロックンロールの中間にいるような人で、ブルースからの見事な遠近法の中でワンアンドオンリーの世界を作っているとは書ける。普通はロックンロールに入れられるのだろうか?実に面白い音楽で、ストレートなブルースもあるが、ブルースと言うには軽い。単調なリズムに聞こえるが、その単調さが面白いグルーブを生んで、独特のノリを作り出す。アフリカ的な太鼓のイメージや掛け声、そしてシンプリシティもついて回る。ラテンやR&Bの匂いもある。ロックンロールだが、ロックンロールと言い切るには勇気がいる。オレにはロックンロールとブルースの違いがいまいち明確には分からない。ブルースにはオレが考えていたバリバリのロックンロールのリズムで奏でるものが多かったりするからややこしいのである。ロックンロールとブルースの違いって何だろう?考えれば考えるほど分からなくなってくる。そして、気になって仕方がないのは、ルイジアナのブルース、ニューオリンズのブルースとの関わり、距離感だったり、相似形だったり・・・・、いろいろな関係性が頭をよぎり、これはやっぱりボ・ディドリーであって、それ以外の何ものでもなく、ブルースだのロックンロールだのと分けても何の意味もないように感じてしまう。ボ・ディドリーひとりを書こうとするだけで、このありさまだ。いや、これはボ・ディドリーだからなのだろうか?ボ・ディドリーの音楽は不思議不思議音楽だから仕方がないのだろうか?

 確かに典型的ブルースというのはある。日本でもよく知られているロバートジョンソンマディウォターズ、そしてモダンになればBBキングなどの音楽は確かに、ブルースの一面を強烈に印象づける。ところが、上述しているが、ニューオリンズのブルースは確かに混血が進みすぎてなんだか分からない。明瞭なブルース色とは遠く、クレオール音楽、スペイン、メキシコ、フランス音楽なども混じり合ってできたニューオリンズブルースなんて呼ばれているブルース種をどう考えればいいか、分からなくなってくる。プロフェッサーロングヘアーのピアノのブギは素晴らしくドライブし、すぐに浮き浮きしてくるが、これと一体ジャズのブギは何が違うのだろうか?

 本来は音楽について、まるっきりそんな事は考えなくても良いのである。別にブルースだろうがロックだろうが、まったくどうだっていいに決まっている。
 音楽には誰かが言ったとおりで良い音楽とダメな音楽があるだけである。なんだってそうなんだな。芸術はそうなんである。ジャンルなんてどうだって良いのだ。そもそもここからがブルースで、ここからがブルースじゃないなんて境目は実はあってないようなもので、常に別の、演奏したことのない、聴いたことのないものを作り出そうとする性はアーティストならば誰でも持っているものだ。1960年代のニュージャズと呼ばれたジャズを、1950年代には想像すらし得なかっただろう。音楽は形を変えてどんどん進んでいく。それは人の欲求でもあるから仕方がない。そして、また、進んでいる時は健康だ。止まったときが怪しい。時代は保守化し、成熟なんて言葉の前で停留し、細かな差異化を図るようになってくる。こういうときは、常にダイナミズムが消えて、内向型になる。今の日本もまったく同じである。政治もそうならアートも舞台もまったく同じ。内向し、ダイナミズムが消えて、ちょっとした差異化をさも大事件のような言葉で表すようになる。差異化を発明だなんて思うような勘違いを起こしているときは最悪だ。

 そうは言っても強烈なブルースというのはある。オレの大好きなLightnin Hopkinsの「Mojo Hand」John Lee Hookerの「It serve you right to suffer」Sonny Boy Williamson の「Down and Out Blues」などを是非とも一度、聞いてみて欲しい。理屈抜きで、おおお、ブルースだあ、と思うに違いない。考えることなく、音楽の泥沼に引きずり込まれていくような快感がある。John Leeの「It serve you right to suffer」の冒頭の曲なんて、もう一回、もう一回、君の親父がなんちゅうても、お袋がなんだっていってもよお、関係ねえ、もう一回、やらせろ、もう一回、もう一回・・・と言い続けるんである。笑ってしまう。そんな明るいドロドロ泥沼が口を開けて待っている。

 これに嵌ると、もうブルースは底なし沼みたいに見えてくる。生々しい人間の心象が見えてくる。音楽も舞台もアートも、結局は根幹に横たわっている人間の生々しさが出てこないようなものはダメなんである。それを感じ取れる感性こそが実は非常に重要なんであるが、どうもその辺の感覚が希薄になり、今はあらゆるものが薄められている。ああ、なんちゅう気の毒な世の中になったんだろう。

 おお、そうだ、だからブルースなんだな、と思う。ブルースの濃密さは、笑っちまうような濃厚さで、オレたちをあざ笑いつつ励ましているようにすら思えてしまう。黒く深い顔、いかにも生物の根幹にあるような生命的な顔をしている上記の三人。おいおい、「Down and Out Blues」のジャケットのSonny Boyの写真なんて、ほとんど乞食だ。どんなになったって死なねえぞ、オレは、いや、オレはいつ死んだっていいんだ、ほっとけ、バカ野郎、って言っているようで、爽快になる。
 「Mojo Hand」を聴いてみてくれ!悪魔の歌みたいな歌をコッソリとぐっさりと歌っている。でっかいホールにズルズルズル、だ。

 そうだ、こんな時代になっちまった。だから、みんなでブルースを聴こう!まずはLightnin から行ってみようではないか。

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小池博史撮り下ろしフォト作品より。
空間に対する独自の視点と鋭い反射神経で、瞬間を捉える才能を発揮。優れたスナップシューターと評価されている。

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 アメリカシリーズ
〜 後姿編 〜
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小池博史 「総合表現」創作ワークショップ

●内容
 自分を空間に立たせるためには何が必要なのか。身体のリアリティーを感じながら、動き、声、感情、様々な身体のエレメントを使って、自分自身と向き合っていくことから始めます。
 最終回では、発表会を実施!

●日時 2009年3月21日(土)22日(日)10:00〜14:00

●参加費 2回通し7,000円(料金改定しました)

●スタッフからオススメコメント!
 毎回好評の小池博史ワークショップは、『身体』を目覚めさせるきっかけになるワークショップです。初心者からプロの方まで、どなたでも参加できます。自身で演劇・ダンス等の活動をされてきた方には、より刺激的な体験、発見の場となることでしょう!

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パパ・タラフマラ舞台芸術研究所(P.A.I.)
第14期生卒業公演「COLORS」

 一人一人の個性と才能が様々な色や形となって空間を埋め尽くします。若い力とまっすぐなまなざしで目指してきた卒業公演。
 小池演出作品では「ドンキホーテ」をモチーフとした渾身の新作をご覧いただけます。そして、すでに10年以上研究所内で継承され続けている「HARUSAI」にも乞うご期待!

【日時】 2009年4月10日 17:00開演
※開場は開演30分前
※終演予定 20:00

第一部 17:00〜 研究生小作品集
第二部 18:30頃〜 小池博史演出作品「プリティ・ドンキホーテ」
第三部 19:15頃
〜 「HARUSAI」

【会場】
かめありリリオホール
〒125-0061 東京都葛飾区亀有三丁目26番1号
JR亀有駅南口下車徒歩1分


【料金】
前売 2300円/当日 2500円
↓チケットはこちらのフォームからお求め頂けます!
http://kikh.com/pai_ticket.html

【出演】
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【お問い合わせ】(株)サイ/P.A.I.事務局
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パパ・タラフマラ舞台芸術研究所(P.A.I.)
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※月・火・木・金曜日(水・土・日は休み)

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【所在地】〒165−0026 東京都中野区新井1−1−5−1F
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発行・H island編集 大久保有花