今月の表紙 アニマルシリーズ『インドネシアのアヒル』 Photo:Hiroshi KOIKE
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『音楽の情景または
レコード棚の記憶から』

ソロの音楽、そしてソロの街



『インドネシアシリーズ』
〜 洗濯もの編 〜

小池博史ミュージックコレクションの中から選択した曲もしくはアーティストについてのエッセイ。 単なる音楽批評ではなく、情景をも喚起させる、演出家ならではの考察。

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『音楽の情景またはレコード棚の記憶から』 vol.24

ソロの音楽、そしてソロの街

 4月21日からインドネシアのソロで「ガリババの不思議な世界」を制作している。ほとんどがインドネシア人で、日本からは私を含め3人しかいない。インドネシアンの関係者はすべて合わせると、相当数に上る。音楽もジョコポロンというソロの音楽家とのやり取りと日本から藤井健介さんがネットを通じて音楽を送ってくるという変則的制作体制を取る。もちろんそんな方法を選択しているのには、さまざまな理由がある。加えて、ダランというワヤンクリッの使い手、つまり影絵師が参加するが、彼は伝統的ダランでありつつ、コンテンポラリーダランでもあって、たくさん妙なことをやっている。コンテンポラリーの舞台では、まったく影絵は使わず、水を人形に見立てたり、コンドームを人形にしてみたり・・・なんでもこいの、体重が200キロもあるダランで、今回もメインの出演は語り手としてであり、歌い手であり、彼のパートの作曲家でもあり、そして人間世界と別の世界の媒介者の役目を果たす存在として存在している。こんな風だから、毎日、インドネシアとジャワの言葉に囲まれ、音楽に囲まれ、インドネシア的、ジャワ的、あるいはバリ的、スマトラ的、東ジャワ的・・・さまざまな身体に囲まれている。

 世界は、やっぱり広いのだ。
 僕らの常識は、もちろん彼らの常識ではない。僕らはドレミファソラシドは誰でもできると思っているが、彼らにはできない。ドレミファ文化は持っていないのである。よって当然、五線譜もない。ドミソの音階での歌を歌わせようとしたら、これが合わない。少し音がずれる。

 歌い手とのミーティングのとき、ジョコが書いていたのは点線と数字だった。いったい何かと思ったら、ジャワの楽譜だという。ジャワの楽譜は点線と数字で成り立っているのだ。そこにABCとか書いてあって、これはなんだと聞くと、好きな感じでやっても良いという記号だという。日本だって、もともと五線譜があったわけじゃないから、驚くほどではないとも言えるが、点と数字が楽譜になるとは、と唸った。しかし、要は決まり事を作り、その決まり事に則っていけば良いだけだから、なにも点と数字が楽譜であっても驚くに値しない。別にひらがなとカタカナと○印、×印でもなんでも良いわけだ。要は記号である。記号の読み方さえ間違えなければ、音は作り出せるのである。

 思えば、人の意識、認識を知るためには、どんな文化を背景にしているかを知らねばならない。必須だ。思い込みで異文化の人間を判断するほど恐いモノはない。自分の文化のスタンダードは決して世界のスタンダードではないのである。やはり世界は広いのだ。しかし、そうは言っても人間は、世界の広さを知らない。だから、軋轢が生まれる。世界が広いことは知ってはいても、情報によって、世界を狭く感じとるという勘違いが起きる。だから、世界の広さよりも世界の狭さを認知し、広さを深く体感する人が少ない。要は、身体化しない文化を知識としてのみ知っているということに過ぎないのだが、そのような浅い知識は、簡単に自分の文化の基準に他の文化を当てはめ、劣っているとか、間違っているとか、勝手な判断を下して、一方的に、攻撃するようなことを生み易くする。身体とは何かと言えば、温度、湿度、光りの強さ、弱さ、植物や動物・・・すべての環境を実感できる場所に身を置いてこそ知ることができるもので、知識はほんの断片でしかない。断片で全体を判断することなど絶対に不可能である。

 僕は、相当数の国を歩いてきている。たぶん50カ国以上になるだろう。だから、なんとなく知っているつもりで、いろいろな判断を勝手にしてしまいそうになるが、やっぱりそれも間違いだ。インドネシアと一括りにすらできない。インドネシアにも多くの文化の相違があり、国家はそれら多くの文化圏をまとめている権力的組織に過ぎない。ジャワとバリ、スマトラ、スラウェシ、イリアンジャヤ・・・みんな違う。同じジャワ内で、ジョグジャカルタとソロなど、列車でたった1時間の距離でしかないにも関わらず、多くの相違があるそうだ。豚を食わない人たちと、食う人たちがとなりに座り、オレは食う、食わない・・・イスラムだけど食うんだ、オレは、と言っている人もいたり、なにがなにやら分からない。それが実はアジア的混沌と言いたくなるが、でもアジアとは限らず、世界的混沌なのだろう。その混沌を認めないと、すべてはキリスト的文化への一元化を求めようとした100年以上前とまったく同じような状況が生まれる可能性があるのである。

 僕は、今、ソロのゆったりとしたガムランの響きやら、舞踊を体感しているのと同時に、自分自身の作品作りで、まるっきり違う身体性やら、リズムを彼らに課してみたりして共に遊んでいる。共感は、相手を納得するところからしか、なかなか生まれては来ないのである。

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小池博史撮り下ろしフォト作品より。
空間に対する独自の視点と鋭い反射神経で、瞬間を捉える才能を発揮。優れたスナップシューターと評価されている。

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 インドネシアシリーズ
〜 洗濯もの編 〜
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小池博史・インドネシア共同制作プロジェクト
プロローグ公演『三人姉妹』
新作公演『Garibaba's Strange World』

  現在、インドネシアのアーティスト達との共同制作プロジェクトに取り組んでいる小池博史。そのプロローグ公演として、去る4月18日(土)、『三人姉妹』の公演が行われました。
 そして、6月には『
ガリバー旅行記』をモチーフにした新作『ガリババの不思議な世界』を行います。 どのような作品になりますか、イメージ写真にて、想像を膨らませて、お楽しみ下さい。

『ガリババの不思議な世界』
日にち:6月7日(日)
会場:タマンブダヤ コンサートホール(ジョグジャカルタ)
日にち:6月12日(金) 
会場:TIMホール(ジャカルタ)





photo:Hiroshi KOIKE

そして、写真だけではモノ足りないあなたへ

★緊急企画★
パパ・タラフマラ「ガリババの不思議な世界」
インドネシア公演を観に行こう!3泊4日

【概要】
受付:1名様以上、5月29日まで申込受付
インドネシア(ジャカルタ)旅行 3泊4日

□出発日:2009年6月10日(水)午前出発同日着
□帰国日:2009年6月13日(土)午前出発同日着
□観劇日:6月12日(金)

□ツアー料金79,000円〜95,000円
(航空券代・ホテル代・舞台公演チケット代含む)
※食事代は含みません

 昨年10月、東京グローブ座で上演した「ガリバー&スウィフト-作家ジョナサン・スウィフトの猫・料理法-」に続き、 ガリバー旅行記の著者であるジョナサン・スフィフトをモチーフに繰り広げる新作公演「ガリババの不思議な世界 / Garibaba's Strange World」が、インドネシアで誕生します。
 本企画は、「ガリババの不思議な世界」の舞台観劇をはじめ、魅惑のインドネシアを旅するツアーです。
 パパ・タラフマラ新作公演他、優雅なアジア流ホテルライフと観光地めぐりをお楽しみください。

<“ガリババの不思議な世界”について>
 インドネシアンダンサーのユニークで饒舌な身体、影絵やガムランといった伝統芸能を取り入れ、小池博史が異動物文化世界へまぎれ来んだジョナサン・スウィフトを描き出す奇想天外な悲喜劇 船旅アドベンチャー!
 パパ・タラフマラからは、あらた真生、池野拓哉(ジョナサン・スフィフト役)2名が参加。
 現地オーディションによって選ばれたのは、インドネシアを代表するダンサー11名。ジョンペット(横浜トリエンナーレ2008参加)による舞台美術他、インドネシアン・アーティストが魅せる不思議世界への旅が始まります。

脚本・演出・振付 小池博史
出演 あらた真生、池野拓哉、アンガ、ジャマール、リアント他
舞台美術:ジョンペット 他
主催:国際交流基金、ケローラ財団、パパ・タラフマラ
助成:財団法人セゾン文化財団+EU・ジャパンフェスト日本委員会(共同支援事業として)

ツアーに関する詳細は、こちら→http://kikh.com/garibaba.html
□お問い合わせ
SAI Inc. TEL 03-3385-2066 
E-mail yamamoto@pappa-tara.com

 

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パパ・タラフマラ 公式サイト

小池博史 公式サイト
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毎月10日発行
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発行・H island編集 大久保有花