今月の表紙 チルドレンシリーズ『ニューヨーク』 Photo:Hiroshi KOIKE
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『音楽の情景または
レコード棚の記憶から』

ローリー・アンダーソンのこと



『ハワイシリーズ』
〜 自然編2 〜

小池博史ミュージックコレクションの中から選択した曲もしくはアーティストについてのエッセイ。 単なる音楽批評ではなく、情景をも喚起させる、演出家ならではの考察。

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『音楽の情景またはレコード棚の記憶から』 vol.29

 ローリー・アンダーソンのこと

 日経新聞に瀬戸内寂聴が「奇縁まんだら」という連載をしていた。再開するらしいので、過去形ではなくなり、再び現在形になっていくだろうが、この連載は面白かった。瀬戸内寂聴、つまり昔の作家、瀬戸内晴美を巡る人物群像である。いろいろと面倒な面もあって、死者のみに限っていたが、それでもかなりきわどく、それだけに鋭く突っ込んでいたし、確かに奇縁というのはあるものだなと思わせるに充分だった。絢爛豪華な取り巻きである。こういう絢爛豪華さはどこから来たのだろうか、と思う。今でもそうだ。たぶん、瀬戸内晴美には引き寄せる磁場のようなものがあって、そこにみんな寄っていったのだ。特別、美人でもないが、男好きのするエロスの名残すらある。これがこの人に文学を書かせたのだろうし、仏門にも入らせたのだろうから何が人にとって良いのかは分からない。結局は、自分に与えられた能力を最大限活かす努力をしたかどうかが問われるということだろうと思う。
 
 こんなことを書きだしたのも、先日、ローリー・アンダーソンと対談を行なったからである。ローリーは僕にとっては憧れであったし、若かりし頃、作品を作ろうとして非常に勇気づけられた人でもあった。容姿も良かった。ボーイッシュで、短髪の、いかにも柔らかそうな髪の毛を逆立て、ジャンプスーツやボディドラムスーツを着て、スクリーンの前に立ってビデオと一体となっていた姿は、知的でとても格好良かった。その姿を彼女の初めての東京公演の会場で遠目に見、かつLPレコードで音楽を聴き、憧れはますます募っていった。彼女のレコード、CDはたぶん全部持っていると思う。先日の対談中にも話したことだが、彼女はアメリカイリノイ出身であるが、彼女の音楽は太古からの風を感じるような音楽で、それが未来への矢印となっているように僕は感じてきた。当時の、ただの、ヒップな、新しい音楽と思っただけではなく、古さも同時に身につけて、格好良い音楽家というよりもアーティストだったのだ。
 そのローリーが2007年のニューヨークBAMでの「Ship in a View」公演を見ていたと言う。そして、彼女がニューヨークジャパンソサエティで行なう「夢・時間・記憶」というトークショーの相手にと、お呼びが掛かった。これは上記のような理由があったから、とても嬉しかった。今から10年くらい前、サンノゼで、相当数のプレゼンターが集まっている会場で、そのときローリーはゲストとして来ていたのだが、あるコラボレーションの企画を何人かのプレゼンターに話すと多くが、それならローリーとでもやればいい、と言われたことを思い出す。そのときは、まだまだ高嶺の花を眺めるような気分があって、話をすることすらできなかった。そういうモロモロを経ての今回のトークショーであった。奇縁でも何でもないが、僕は勝手に縁を感じた次第である。

 さて、ではここで、ローリー・アンダーソンの音楽の話に移ろう。と言っても、最近ではローリーのことは知られなくなってしまったようだ。若者に聞くと知っている者ももちろんいるが、8割以上は知らない。アート系の学生たちにしても同様である。そうか、そんなに長い時間が流れたのか、とガックリとする。確かに、先日、会ったときは、10年ちょっと前とは大きく様変わりし、ずいぶん年を取ったものだと感じた。元もと僕が知っていたローリーは20〜30年前の最も乗りに乗っていた時期だったから致し方ないのだが、それでもあの永遠へと繋がっていくような話し方はそのままで、実に話のうまい人だと感心した。その喋り口調がそのまま歌へと変換していくような音楽がローリーの音楽で、歌と語りの隔てが薄く、ゆるゆるとその流れに身を任せたくなるところがある。なんでも彼女が子供の頃、アンダーソン一家はみんなでお話を作って語り合うのが楽しみだったのだとか。だから、普通の会話でも語りっぽくなっていく。会話が音楽化し、会話から小さな昔話が持ち出され、脚色されていくうちにどんどん色が付いて音楽になっていくような、そんなイメージを私はローリー音楽に持っている。たとえば、その語りを画に描いてみると分かりやすいような気がする。小さな葉っぱがフワリと舞い上がると木にくっ付き、雲が流れ、雨が降り、太陽がさんさんと降り注いでいるうちに、秋になる、と果実が実って、猿がやってきてそれをもぎ取り、すると奪い合いが始まり・・・という具合にどんどん小さな話が膨らんで歴史性すら持っていくような感じ。

 だからなのだろうが、彼女とはメキシコの話に終始した感があった。パパ・タラフマラのタラフマラはメキシコの部族名である。全体に、メキシコ人というのは、私は歴史が切れていない感を持っている。歴史観を持っているというよりも、歴史的時間性を身体に内包していると言った方が正しいだろう。その感覚は人類としては、実は当たり前でなければならないが、多くの人々が忘れてしまっている中、珍しくメキシコ人は未だに持っているということでもある。

 ローリーの音楽を聴くと、アメリカ南西部をドライブしたときのことを思い出す。地平線しかないような場所、地上にニョキニョキと巨大なきのこのように隆起した地面が生えているかのような場所、そこを吹き渡っていく風・・・そんな風景が思い浮かぶことが多い。ローリー・アンダーソンという音楽家、いやアーティストは、音楽や最新のメディアを使用して、太古の昔からの風を現代に送っているように感じるのである。
 どのアルバムも面白いが、是非「Life on a String」を聴いてみて欲しい。

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小池博史撮り下ろしフォト作品より。
空間に対する独自の視点と鋭い反射神経で、瞬間を捉える才能を発揮。優れたスナップシューターと評価されている。

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 ハワイシリーズ
〜 自然編2 〜
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小池博史&パパ・タラフマラ新作公演
「パンク・ドンキホーテ」
チケット発売中!

 待望の新作は”ドン・キホーテ”。16名のパフォーマ−とジプシーバンドが繰り広げる新しいパパタラワールドは、カラフルでクレイジーで、スピード感あふれる舞台になりそうな予感。これは見逃せません!

日程:2009年12月11日(金)〜20日(日)

料金(全席指定):
 前売一般 5000円
 65歳以上 4500円
 学生 3900円
 小学生 2000円
 当日券 各券の500円増

チケット詳細はこちら 
※3月公演「Nobody, NO BODY」とのお得なセット券もあります。

☆14日(月)公演終了後、トラフ建築設計事務所(鈴野浩一、禿真哉)と、小池博史によるポストパフォーマンストークあり
※受付開始は開演の60分前、開場は開演の30分前です。
※上演予定時間は約90分です。(休憩なし)
※開演時間を過ぎてのご来場は、指定席通りのご案内ができかねる場合がございますので、ご了承ください。

【会場】あうるすぽっと【豊島区立舞台芸術交流センター】
〒170-0013 東京都豊島区東池袋4-5-2 ライズアリーナビル2F 
TEL.03-5391-0751
東京メトロ有楽町線「東池袋駅」6・7番出口より直結 / 「池袋駅」より徒歩10分

「パンク・ドンキホーテ」公式サイト 

 

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パパ・タラフマラ 公式サイト

小池博史 公式サイト
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発行・H island編集 大久保有花