今月の表紙 チルドレンシリーズ『タイ』 Photo:Hiroshi KOIKE
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『音楽の情景または
レコード棚の記憶から』

デューク・エリントンを聴く



『タイシリーズ』
〜 水上編 〜

小池博史ミュージックコレクションの中から選択した曲もしくはアーティストについてのエッセイ。 単なる音楽批評ではなく、情景をも喚起させる、演出家ならではの考察。

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『音楽の情景またはレコード棚の記憶から』 vol.30

デューク・エリントンを聴く

 デューク・エリントンを尊敬するミュージシャンは数知れず、どれだけ優れているか、さまざまな批評を目にし、言葉を聞いてきた。かのマイルス御大でさえ、エリントンを尊敬し続けたのである。だから、20代の頃、多くの批評や言葉に触発されて、エリントンを知ろうといくつかのアルバムを聴いてみたし、それからも折に触れ、エリントンは聴いてきている。

 そうは言っても、あるときまで、それはジャズ教養を知るような感覚だった。ジャズには歴史があり、その歴史の最大の立役者の一人がデューク・エリントンだ、あらゆるジャズミュージシャンに尊敬され、エリントン自身がもうエリントンバンドだと言ったような。そんなに凄い音楽家の音楽を拝聴するという気持ちが強かった。こんな風だったから、当然、心から楽しんでいたとは言えない。が、こう言い切ってしまうと語弊がある。楽しいことは楽しいし、素晴らしい。しかし、曲が並ぶと最初はその違いを面白く聴いていても、次第に同じように聞こえてしまい、しまいには飽きてしまうということの繰り返しであった。

 その最大の理由は、SP時代の録音は3分程度が限界だったということがある。1940年代までのポピュラー音楽の録音は3分程度が限界だったようである。クラシックでは長時間録音物はたくさん出回っているので、なぜポピュラー音楽が・・・という疑問はあり、それを今、調べる時間はないので、まあ、そうだったとしておくしかない。

 デューク・エリントン楽団の絶頂期は1930年代末〜42年頃と言われる。そこにはもちろん3分の壁があるので、なかなかひとつの曲をゆったりと楽しむには至らない。一曲一曲にはウットリと、おおスゲエ、となっても、それが続くと、やはり構造の面白さが似通っていると感じてしまうのである。昔々、「コットンクラブストンプ」という1930年代録音のLPレコードが出たとき、そのジャケットの素晴らしさに即刻買いに走り、楽しさにイカレつつも、やっぱり全部を聴き通すのはなかなか辛く、必ず途中何度も何度も眠くなっては、再び感激し、みたいな状態であった。

 ところが、小コンボの演奏は聴けたのである。チャーリー・パーカーの演奏なんて、あまりの凄さに鳥肌が立ちまくりの状態だった。しかし、エリントンはそんなことはなかったのである。ところが世間の評価は凄まじく高かった。その理由を僕は理解できないまま、時間は長々と過ぎていったのだった。それはあとでハッキリと認識できることになるのだが、エリントン自身の楽器とはピアノでありつつ、彼自身のビッグバンドであったということが最大理由だったと思う。
 デューク・エリントンは1899年生まれで1974年に亡くなっている。本当に息の長かった音楽家で1970年代まで精力的に録音し、精力果敢に新しい彼の音楽を創造しようと挑み続けたから、まったく僕の好きな類の音楽家であるのだ。だから、エリントンをいろいろな角度から聴こうともしてみた。

 通常、この音楽家にはこのアルバムと言った類の名盤があるものである。だから、名盤を網羅し、なんとなく聴いた気になる音楽家も数多い。だが、エリントンは厄介であった。なぜなら、60年代以降のアルバムだと、もちろん長い演奏のアルバムがたくさんある。「ポピュラーエリントン」「極東組曲」などは有名なアルバムで、僕ももちろん持っている。けれど、評価は高いし、楽しめることは楽しめるのだがいまいち腑に落ちない感じが付きまとう。それは40年代初頭の頃の演奏が火の出るような熱気や迫力に充ち満ちている演奏に比べ、やっぱり、それなりに年を取ってしまって、一気にある高みへ持ち上げていくような迫力と情熱が少し薄れているように感じてしまうのである。そうは言っても、エリントンってどんなアルバムがあるの?と問われたときに、たぶん一般的には、最も適しているのは「ポピュラーエリントン」と言われるだろう。録音は良いし、代表曲が並んでいるし、長さもそこそこだし・・。しかし、熱気はあっても、エリントンの絶頂期に比べれば薄いのだ。僕がなぜフルト・ヴェングラーが好きかと言えば、その、言うに言われぬ、指揮者の迫力、立ち上がる熱気、漂う気品、色気に惹かれるからである。技術を超えた高み、精神の高みとでも言えばいいか、そんなアートの神髄こそが見たいし、聴きたいのである。

 30年代、40年代のエリントンの演奏にはそれがあった。情熱、気品、色気、繊細で緻密。しかしながら、3分である。それもビッグバンドの3分である。ここを整理しなければならない。ビッグバンドはアンサンブルとソロで出来ている。アンサンブルも重要な聴かせどころだし、それこそがビッグバンドの醍醐味でもある。特にエリントンオーケストラの凄さはアンサンブルパートが実に緻密で、漂うようでありつつ、一気に激しく燃えるところにある。もちろんソロも30年代、40年代は凄かった。小コンボは基本的にはソロが主体である。ビッグバンドの3分はソロ半分、アンサンブル半分とすると、やっぱり中途半端で、ビッグバンドとしての構造を楽しむには至らなかった。だから、結局、似通ってしまう。と、僕は感じてきたのである。もちろんそう感じなかった人たちも多いだろう。だからエリントンを傑出した存在としてレコードで楽しむ人たちも多かったのであろう。
 この不満というか、物足りなさを一気にぬぐい去ったのが、1950年、51年に録音された「Masterpieces by Ellington」であった。このアルバムはLP時代、すなわち長時間録音が可能になってのちのエリントンバンドとしての初録音だったと思う。


 一般的に名盤とされているかどうかは知らない。エリントンは、非常に多くの録音があり、SP版に対しての評価はきわめて高いが、僕にとってのエリントンは、何をさておいても「Masterpieces by Ellington」である。ビッグバンドの素晴らしさ、エリントンというバンドマスターの力量、ソリストたちの力量、録音の良さ。「ポピュラーエリントン」などと比べたら、遙かにエリントンの強靱で鋼のような精神を僕は感じるのである。ビッグバンドを率い続け、そこにオリジナリティを強烈に付与し、緻密さと知性を併せ持ったリーダーとしての凄みが全部、集約されている。

 なんでも新しい分野を開拓するのは非常に大変なことである。ビッグバンドとなると、当然マネジメント能力も高く持たねばならない。そしてピアニストでもあったエリントンは、そのピアノを聴けば分かるが、ナイーブで緻密な感性を持っていたことは良く分かる。
 要するに、それらすべての音楽家としての優れた要素を持っていた20世紀最大の音楽家の一人であることを僕たちは忘れてはならないと思うのである。
 まずは、その音楽を聴いてみよう。

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小池博史撮り下ろしフォト作品より。
空間に対する独自の視点と鋭い反射神経で、瞬間を捉える才能を発揮。優れたスナップシューターと評価されている。

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小池博史&パパ・タラフマラ新作公演
「パンク・ドンキホーテ」
稽古場レポート

 白熱する稽古場を見学してきました。公演一ヶ月前の現在、作品は55分ほどカタチになってきています。ジプシー音楽がとにかく素晴らしく、哀愁を含みながらも、明るくコミカルな雰囲気を醸し出しています。テンポよくスピード感があり、ダイナミックかつ繊細なダンス、そして歌も堪能できるエネルギー溢れる作品になっています。稽古途中の現段階でも充分見ごたえがあり、楽しめました。また、バリ島の仮面も見どころのひとつです!乞う御期待!ご予約はお早めに!

















動きの練習をするジプシーバンドのアラン氏・岩原氏・多田氏



舞台の説明をする小池博史

photo:編集部

日程:2009年12月11日(金)〜20日(日)

料金(全席指定):
 前売一般 5000円
 65歳以上 4500円
 学生 3900円
 小学生 2000円
 当日券 各券の500円増

チケット詳細はこちら 
※3月公演「Nobody, NO BODY」とのお得なセット券もあります。

☆14日(月)公演終了後、トラフ建築設計事務所(鈴野浩一、禿真哉)と、小池博史によるポストパフォーマンストークあり
※受付開始は開演の60分前、開場は開演の30分前です。
※上演予定時間は約90分です。(休憩なし)
※開演時間を過ぎてのご来場は、指定席通りのご案内ができかねる場合がございますので、ご了承ください。

【会場】あうるすぽっと【豊島区立舞台芸術交流センター】
〒170-0013 東京都豊島区東池袋4-5-2 ライズアリーナビル2F 
TEL.03-5391-0751
東京メトロ有楽町線「東池袋駅」6・7番出口より直結 / 「池袋駅」より徒歩10分

「パンク・ドンキホーテ」公式サイト 

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パパ・タラフマラのオブジェ
「田中真聡展」ご案内

 パパ・タラフマラの舞台に欠かせないのがオブジェの存在。今まで数多くのパパタラ舞台のオブジェを創ってきた造形作家・田中真聡さんの個展が開催されます。間近で精巧なオブジェを鑑賞できる良い機会ですので、ぜひご覧下さい。もちろん、次回作「パンク・ドンキホーテ」でも田中真聡さんのオブジェが登場します

日時:2009年11月16日(月)〜28日(土)11時〜19時
※22(日)休廊 23(祝)開廊
会場:ギャルリー志門
東京都中央区銀座6-13-7 新保ビル3F
TEL:
03-3541-2511

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パパ・タラフマラ 公式サイト

小池博史 公式サイト
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発行・H island編集 大久保有花