今月の表紙 チルドレンシリーズ『フィリピン』 Photo:Hiroshi KOIKE
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『音楽の情景または
レコード棚の記憶から』

デセロニアス・モンクは
セロニアス・モンクなのだ



『インドネシアシリーズ』
〜 ボロブドゥール編 〜

小池博史ミュージックコレクションの中から選択した曲もしくはアーティストについてのエッセイ。 単なる音楽批評ではなく、情景をも喚起させる、演出家ならではの考察。

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『音楽の情景またはレコード棚の記憶から』 vol.31

セロニアス・モンクはセロニアス・モンクなのだ

 僕は1986年に「モンク」という作品を作った。タイトルは何を表わしているの?坊さん?メレディス・モンク?と言っていた人もいたけれど、多くはすぐにセロニアス・モンクのことだろうと気付いてくれた。

 セロニアス・モンクを知っているか?知らない?ならば、即、聴いてみることです。ジャズ・ピアニストで、いや音楽家として、これほど孤高の境地を保ち続けた妙で、面白い音楽を制作した先人はそうそういないのである。ゴンブトである。ゴンブトであるから、当然、取っ付きにくい。取っ付きにくいけれど、魅力は溢れ出て、しかし、その魅力に納得するまでに至らず、聴かなくなってしまったのではあまりにもったいない。そういう音楽家である。

 僕は昔からのモンク好きだった。モンクのピアノはまるっきり流麗ではない。あれれ、つっかえつっかえみたいに聞こえなくもない。行きたいのに行けないもどかしさを感じるかもしれない。なんだこれは、とその崩れ具合に愕然とするかもしれない。ビバップから始めたジャズミュージシャンであるから、本来は流れるようなフレーズの洪水みたいなジャズこそがジャズであったはずなのである。その時代にあって、セロニアス・モンクはセロニアスしかできなかったのである。マイルス・デイビスがオレのバックでは弾くな、と言った逸話がよく知られているが、本心はどうであれ、それは正しいと言わざるを得ない。マイルス的美学とセロニアス的美学が合うとはとても思えない。思えないが、マイルスがモンクを嫌ったとも思えない。マイルスほどの男がモンクを認めないはずがないのである。マイルスは情緒的、叙情的で、それが前面に出て来るが、モンクはそれらは陰に隠れ、表には出ない。出るのは妙なリズム感であり、異様さである。これほどオリジナリティという言葉が当てはまるピアニストもいないだろう。このリズムでピアノを弾くの?と思うが、聴いていくと、まるっきり別個の時間が流れ、リズムが流れているかと思いきや、それが他のリズム隊とはピタリと嵌って、不思議ドライブを行なっているような気分に陥っていく。なにゆえにこんなピアノを弾くようになったかは不明だが、そんなことはどうでもよい。こういうピアニストもいるのである。

 野球選手でもやたらと面白い構えをする選手とか、昔のマラソン選手の谷口裕美さんのようにこんな走り方で大丈夫なの?というような走りで淡々と走り、そして優勝をかっさらっていくような、とでも言えばいいだろうか。セロニアス・モンクは、ジャズ界の異端であり、あり続けたのだった。

 とは言え、セロニアス・モンクはジャズの人である。ジャズであってジャズからは一歩も出ていない。その意味では自身の身体感覚に基づいたピアニスト性を強く持った人で、音楽構造やジャズの構造を革新的に変えていった人ではない。あくまでも特異ピアノを武器とした演奏家であったのである。だから、マイルスやミンガスのように、構造的に考えるような音楽家ではなかったし、自身の身体から発した革新性を推し進めたジョン・コルトレーンやセシル・テイラーのようなすさまじさも持ち合わせていなかった。ところが非常に革新的な感覚を味合わせてくれる。リズムを聴いているだけでも、あまりに違うのでぶっ飛んでしまう。
 たとえば「セロニアス・ヒムセルフ」というソロアルバム。「April in Paris」をこんなタイム感覚で弾いたピアニストはどこにも見あたらない。もたもたしつつも、アイデアに溢れて、グイグイと流れていく。そして、そのピアニストとしてのオリジナリティと才能の凄さにギョッとなってひっくり返るのである。
 もちろんソロアルバムだけではない。「ブリリアント・コーナーズ」でも「モンクス・ミュージック」でも、多くの演奏家が入ってきているにもかかわらず、圧倒的にセロニアス・モンクである。モンク色に貫かれている。その強烈さ。タイ料理のパクチー、インドの香辛料、韓国ならば唐辛子・・そんな具合のモンクという香辛料の強烈さにやられ、それは唯一無二で光り輝くのである。

 こんなジャズもあるのか、と驚くこと必定。最初は下手だと思うかもしれないが、それはあまりに浅はかだとすぐに悟るだろう。その悟りを味わってみたまえ。僕はその妙な空間に漂い続けて35年だ。こんな至福はそうそう味わえない。
 是非、一聴あれ!!

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小池博史撮り下ろしフォト作品より。
空間に対する独自の視点と鋭い反射神経で、瞬間を捉える才能を発揮。優れたスナップシューターと評価されている。

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 インドネシアシリーズ
〜 ボロブドゥール編 〜
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小池博史&パパ・タラフマラ新作公演
「パンク・ドンキホーテ」
いよいよ明日初日!!

 待ちに待った初日を明日、迎えます!美術、照明、音楽、衣装、すべてが揃った状態で観られると思うと、期待でわくわくゾクゾクいたします!
 予告編と小池インタビュー映像で気分を盛り上げてから、ぜひ生の舞台を観に行きましょう!





※映像が表示されない場合は↓をクリッック
予告編小池インタビュー

 

日程:2009年12月11日(金)〜20日(日)

料金(全席指定):
 前売一般 5000円
 65歳以上 4500円
 学生 3900円
 小学生 2000円
 当日券 各券の500円増

チケット詳細はこちら 
※3月公演「Nobody, NO BODY」とのお得なセット券もあります。

☆1:12日(土)夜の公演回終了後、アラン・パットン(作曲)×藤井健介(作曲)×小池博史(作・演出・振付)による
   ポストパフォーマンストークあり
☆2:14日(月)公演終了後、トラフ建築設計事務所[鈴野浩一、禿真哉](舞台美術)×小池博史によるポストパフォーマンストークあり
☆3:17日(木)公演終了後、ロビーで、出演バンド「カツラマズルカ」(演奏)による、ミニライブあり

※受付開始は開演の60分前、開場は開演の30分前です。
※上演予定時間は約90分です。(休憩なし)
※開演時間を過ぎてのご来場は、指定席通りのご案内ができかねる場合がございますので、ご了承ください。

【会場】あうるすぽっと【豊島区立舞台芸術交流センター】
〒170-0013 東京都豊島区東池袋4-5-2 ライズアリーナビル2F 
TEL.03-5391-0751
東京メトロ有楽町線「東池袋駅」6・7番出口より直結 / 「池袋駅」より徒歩10分

「パンク・ドンキホーテ」公式サイト 

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パパ・タラフマラ 公式サイト

小池博史 公式サイト
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発行・H island編集 大久保有花