今月の表紙 パパ・タラフマラ舞台写真シリーズ『三人姉妹(2005年初演時)』 Photo:Hiroshi KOIKE
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『30年間でパパ・タラフマラが関わった人々シリーズ』
葛西薫さんのこと



『パパ・タラフマラ舞台写真シリーズ』
〜 三人姉妹 〜

小池博史が語るパパ・タラフマラをめぐる人物論。

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30年間でパパ・タラフマラが関わった人々シリーズvol.1

葛西薫さんのこと

  6月24日にパパ・タラフマラの解散発表を行った。1982年6月1日がパパ・タラフマラの公式発足日だから、いろいろなことを言われながらも、30年目を迎えたところだった。
 まったくもって、‘いろいろなこと’を言われ続けた30年であった。そして延々と日本では難しいポジションでの綱渡りをしてきたのだった、と改めて感じている。

 ある批評家には1980年代半ばに「こんなやり方で10年やれたら、運動場を逆立ちして一周してやる」とまで言われた。この男の方が10年程度で消えてしまった。「パレード」という作品とフランス革命を対比し、その後のフランスの土壌にはあのとき流された血がたっぷりと染み込んでいる、それに対して、この作品は表層的だと言った学者がいたが、彼はその後どうしているのか。「船を見る」を退行しているだけで、単なるノスタルジアだと言い放った学者は未だまったくもって見えたものしか語れないが、その方が受けよく、分かりやすい。表面しかさらえない学者や批評家など百害あって一理なし。そうしたジャーナリズム、学者、批評家はごまんといる。これが日本をどんどん悪くする。「未来の空隙は響き」という作品では、多くの舞踊批評家が途中退席し、こんなモノは舞踊ではないと激怒したらしい。先日、ある編集者の方からメールを頂いた。そこには故岡本敏子さんが「ストリートオブクロコダイル」を見て興奮して話をし続けていたのを切っ掛けにその方も見るようになった、と書かれていたが、同じ作品を見たある舞踊批評家は学生たちに向かって「あんなモノを見てはいけない」と宣わっていたそうである。もう、こんな風に延々と逆風が吹き荒れ続けてきた30年だった。まだまだこのようなエピソードは限りないくらい存在している。海外でではなく、国内限定ではあるが・・。

 そして私は、と言えば、制作にいろいろと言われつつも、キッチリとした、当たり前の批評家との関係性を築いてきたと思っている。それは明瞭な距離を取るということである。だいたいが距離の取り方を間違えている。そして間違えた距離が好ましいと感じる批評家がほとんどだから、どうしようもなく腐ってしまっているのがこの業界である。

 とにかく、褒められるにせよ、文句を言われるにせよ、いわゆる批評家の書く文章からは、まったくと言っていいほど刺激を受けなかったと言って良い。印象批評なら誰でも書けるのである。誰がうまいとか、台本がどうしたとか、声が通るとか、身体能力が高いとか、自分の好みを押し隠しつつも好みと印象でしか書けないのが日本の批評眼のない批評家だと思ってきた。パパ・タラフマラに関しての批評だって、似たようなもの。褒められた文章では、意味が自由だとか、解釈自由だとか、そんなものが一時期、批評界を躍ったのだ。しかし、この程度のことが批評になるとしたらなんとまあ、寂しい世界だろうか、私はこうしか言えないよ、書けない、と言っているようなものだ。だから、パパ・タラフマラに関する批評はあるとき、ピタリとストップしたのである。

 先日、港千尋さんと飲んでいるとき、彼は「詩人は批評してこそ詩人なんだよね」と言っていたのだが、まったくである。言い換えれば「批評家は詩人であってこそ、批評家」ということになる。しかし、驚くほど詩的感受性不在の批評家が多いのである。それなしにできるのが不思議だが、できてしまう不思議がまかり通っている。
 さて、なにゆえにこんな批評家批判ばかりをするかと言うと、あまりに愕然とする歴史が延々と続き、それが一切良くならないどころか、悪化し続けているからだ。そもそも舞台芸術の批評家とは関係性が薄く、30年もやってきてほんの一握りの知人しかいない。それで良いのだと思う。一方、世界中のアーティストを知っている。私自身が直接、関係してきたアーティストだけでもおもしろい人はたくさんいるのである。日本だって、個々を見れば実に多彩だ。だが、システムが悪い。だからなかなか端に位置する人たちにとっては辛い現実がある。

 ただ、今回のテーマというか登場人物の葛西薫さんのように、王道を歩いて、今やグラフィックデザイン界の神様みたいになってしまっている人もいる。こういう方は実は知人では珍しい。みんなどこかしら私が思う王道の人で、他から見ると邪道の人なんである。

 葛西さんと初めてお会いしたのは1996年のことだ。そもそも、いつくもの偶然が重なって、お会いすることになったのだった。
 パパ・タラフマラのオブジェデザインを長くやっている田中真聡は東京芸大のデザイン科出身である。そこで、彼に誰がパパ・タラフマラにとっては一番フィットするデザイナーだろうか?と相談したところ、名前が挙がったのが葛西さんだった。当時、パパ・タラフマラに入ったばかりの三浦宏之のお姉さんで、松島誠とも大学での同期の三浦姉が勤めていたのがサンアドという葛西さんも勤務している会社であり、三浦姉からもいつか葛西さんとやってもらいたいと思っていたとの話を頂いていた。また、その少し前にル・クレジオの紀行本の「ロドリゲス島への旅」という本を読み、内容と共にその装丁に目を瞠っていた。それが葛西薫装丁だった。このような偶然がいくつか重なったのだった。それでお会いしてみると、旧知の仲のように話が弾んだことを強く記憶している。

 葛西さんとは1997年の「島」という作品での宣伝デザインをやって頂いて以来、15年間に渡って数多くの作品を一緒に行ってきた。列挙すると以下の通りとなる。

島〜No Wing Bird on Island
青 (再演)
WD
Birds on Board
青い頭の雄牛
Ship in a View (再演)
Street of Crocodiles 1
Street of Crocodiles 2
Heart of Gold 〜百年の孤独〜
僕の青空
トウキョウ⇔ブエノスアイレス書簡
ガリバー&スウィフト
パンク・ドンキホーテ
Nobody, NO BODY
パパ・タラフマラの白雪姫

 長い時間が関係性を育んでいく。より知るようになる。けれども、最初に出会ったときの感触はいつまでも残る。また、長い時間の中で制作している当時は気づかなかったことを、後になって、気づくことも多々出てくる。葛西さん自身、繰り返し制作することによって、気づかなかった自分自身をパパ・タラフマラでの制作中に発見することがたくさんあったと語ってくれている。私は、ポスターやチラシからインスパイアーされることが何度もあったのだった。

 最初の「島」は白黒の強烈なポスターデザインだった。人間と球の組み合わせがシルエットで白地に黒く浮かび上がっているのだが、そのシンプルさは作品の方向を決定づけられたような気さえしたのである。
 予算がなかった「青」では、きわめてシンプルな「青」という文字で、デザイン化した。チラシ大の青がいくつも集まって、ポスターになった。チラシの大きさを逆手に取っていた。
 「WD」にはビックリした。なぜなら、葛西薫というブランドを感じさせないが、葛西薫であるというおもしろさに溢れていたからだ。色味はまず葛西さん風ではない。ところが配置やらはやっぱり葛西薫である。
 「Birds on Board」では写真を使い、おもしろメークで臨んだ。このとぼけた感じのデザインは、舞台全体のイメージに繋がって、緊密さととぼけた味わいとが拮抗する作品になっていったのである。
 このように次々とイメージを覆しつつ、新しい可能性を切り開くことの楽しみにあふれていたと言える。最新作の「パパ・タラフマラの白雪姫」では、ついに白雪姫、赤リンゴイラストまで登場してしまった。これはまずやっぱり葛西イメージからは大きくかけ離れ、だが、やはり葛西薫であるという喜びに満ちていた。

 葛西薫という人物と話をし、挙がってくるデザインを見て、デザインを通してアートを表現するという稀有なことをやっているのだろうと感じてきた。それはデザインとは目先のクライアントありきの表現であるが、アートはそのようなこととはまったくと言っていいほど異なった精神の持ち方をしなくてはならない。基本は他が入り込んではいけないのがアートの世界である。しかし、このような精神性を保持しつつ、デザイン界でやっていくのは並大抵の力量ではないことを意味している。
 とにかく15年間。こういう素晴らしいデザイナーと作品が作ってくることができたのだ。これはこれで十分満足せねばなるまい。ただ、惜しむらくは、次回予定していた「Between the Times」ができないことである。

 今は、なんとしても来年以降を考えねばならない。だが、その前に、この時代、この国をなんとかしたいと考えてはいるのだ。そんな無駄なことを・・・と言いたい奴には言わしておこう。
 ともかく、遮二無二、来年3月までは行く。まあ、その後に関してもあと2〜3ヶ月で結論が出てくるだろう。小池博史プロジェクトを始動させるのだけは間違いないが、どのように始動させるかが問われよう。
 まずは、ことばで語ることを9ヶ月弱、必死になってやりたいと思っている。

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パパ・タラフマラ舞台写真より。

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パパ・タラフマラ 舞台写真シリーズ
〜 三人姉妹 〜


※2005年初演時の三人姉妹

Photo:Hiroshi KOIKE
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『三人姉妹』再演!
パパ・タラフマラ ファイナル美術館

 流山市生涯学習センターにて開催されるアートフェスティバル の一環で、「三人姉妹」の再演や、過去公演の舞台美術展示を行ないます。
 展示は、「 青」、「SHIP IN A VIEW」、「WD」、「Birds on Board」、「Heart of GOLD〜百年の孤独〜」、「シンデレラ」、「ガリバー&スウィフト」、「白雪姫」、「パンクドンキホーテ」などの公演で使用された貴重なものが見られるチャンス。
 そして 「ガリバー&スウィフト」の舞台美術を担当したヤノベケンジ氏と小池博史のトークも見どころです。
 公演、展示にさきがけてアートトークやワークショップもありますので、お見逃しなく。

【三人姉妹 公演】
日時:7月30日(土)14:00~15:00
会場:流山市生涯学習センター 多目的ホール
チケット:全席自由
一般 前売2000円、当日2300円
高校生以下 前売1000円、当日1300円

予約・問い合わせ:流山市生涯学習センター
TEL 04-7150-7474

【小池博史&ヤノベケンジ トークイベント】
日時:7月30日(土) 15:30~
会場:流山市生涯学習センターギャラリー 参加無料・予約不要
※『三人姉妹』公演後に行います。

【パパ・タラフマラ ファイナル美術館】
日時:7月30日(土)〜8月10日(水)10:00~18:00
※初日は15:30~
会場:流山市生涯学習センター 第一・第二ギャラリー

【パパ・タラフマラ 演出家 小池博史&ギャラリーisland代表 伊藤悠によるアートトーク】
日時:7月25日(月)19:00~
会場:island ATRIUM -studio-  参加無料・予約不要
問合せ:TEL 04-7170-2404

【 パパ・タラフマラをリアルに体験〜3時間でパフォーマンス作品を作ろう】
日時:7月27日(水)18:00~21:00
会場:流山市生涯学習センター 多目的ホール
講師:小池博史
対象:13歳以上
参加費:無料(定員30名)

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パパ・タラフマラ 解散会見

 今年度いっぱい(2012年3月)で、パパ・タラフマラは解散することになりました。詳細は、6月24日に行なった解散発表会見で、小池博史自ら説明していますので、まだご覧になっていない方は、ぜひご視聴ください。
 この会見では、エッセイの登場人物、葛西薫さんも語って下さっています。

USTREAM解散発表会見

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小池博史への質問、承ります

 エッセーの文末にも書かれていましたが、「ことばで語ること」の一環として、次号より読者の皆様からの質問にお答えするコーナーを設けます。
 舞台に関する事でも、それ以外のことでも、小池博史に聞いてみたいと思う事は、なんでもお気軽に下記メールアドレスにお寄せ下さい。

質問送付先:
ookubo@fule-yurara.com
件名:「小池さんへの質問」とご記入ください。
質問の他に、年齢、性別、掲載可のニックネームをお書き添えください。


※すべての質問にお答えできるわけではございませんので、ご了承ください。
※メールマガジンに掲載される可能性があることをご了承いただいたうえで、お送りください。事前に掲載の連絡はいたしません。

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パパ・タラフマラ 公式サイト

小池博史 公式サイト
 
 
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発行・H island編集 大久保有花