今月の表紙 パパ・タラフマラ舞台写真シリーズ『シンデレラ』 Photo:Hiroshi KOIKE
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『30年間でパパ・タラフマラが関わった人々シリーズ』
パパ・タラフマラの衣装たち



『パパ・タラフマラ舞台写真シリーズ』
シンデレラ

小池博史が語るパパ・タラフマラをめぐる人物論。

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30年間でパパ・タラフマラが関わった人々シリーズvol.3

パパ・タラフマラの衣装たち

  衣装!
 僕は全体のイメージを明確に持って作品づくりをする方だと思うが、服はどうにもこうにも難しい。最も想像がつかないのが衣装だと言える。ただ、それはもしかすると、かなり多くの作品の衣装をイッセイミヤケのコレクションデザイナーだった浜井弘治君と小林和史さんと甲斐さやかさんチームのアウトセクトであったせいもあるかも知れない。彼らの衣装は想像がつかない。必ずこちら側の意図を崩してくる。だから、最初は、え?これなに?こんなのではダメなのでは?と感じてしまうのであるが、それを着なれてくると素敵にイメージが変化してくるのである。これが不思議だった。服が服としての機能性を超えて、いろいろな主張をしてくるのである。

 浜井君とは12年間以上に渡って、一緒に仕事をしてきた。1991年〜2003年頃までの衣装はほぼ浜井弘治君であった。2004年以降は、久保薗美鈴さんが入り、彼女の衣装が多くなって、2007年からはアウトセクトと久保薗衣装が半々。2010年にはもう一人、川口知美さんが‘スウィフトスウィーツ’で衣装作家として加わっている。浜井君の前は中務かよさんがやっていて、彼女の衣装もまた、きれいな衣装だったが浜井君になってからはとにかく衣装とは、単に舞台をよく見せるためのツールとしてあるのではなく、舞台自体の印象すら変えてしまい得るものなのだと、掛け値なしにびっくりしたのだった。
 僕の中で大きく衣装概念を崩れさせたのが浜井衣装であった。それはかなりイッセイを彷彿とさせる衣装でもあったが、それでも浜井弘治のアイデアは面白かった。彼が最初に加わった作品は‘パレード’である。この‘パレード’では、僕は照明の関根さんと衣装について、結構揉めた。関根さんは、衣装は身体がちゃんと見えなければダメという。ええ?それは違うと思いますよ。衣装が主張して、それで身体が違って見えれば良いじゃないですか、と、僕は押し通していった。それまでの日本のモダンダンスは特に誰もがぴたっとした衣装を着て、いかにも身体で勝負してます、という衣装だったのである。
 浜井君のアイデアは常に斬新で、‘青’では全部、藍染衣装となり、‘城〜マクベス’では衣装が主体となって社会が構成されていくというように、衣装の重みは増していったのだった。以降もいろいろな衣装の提示があった。限りなく不思議な衣装も山ほどあった。‘WD’の第二章では赤と黒の衣装だったが、これは上下がすべてシャツでできている衣装で、パンツではなく、シャツを履いた。シャツが二重になって、シャツの不思議な形態を使ってのさまざまな形状づくりができたのであった。‘Birds on Board’では衣装の着替えはほとんどないにも関わらず、時間の進行に従って、色味がどんどん出てくるような仕掛けのある衣装にしてもらった。

 浜井君が、東京から故郷の方に去ったとの話を聞き、ガックリしていたときに、久保薗美鈴さんが現れた。パパ・タラフマラを観て、舞台衣装をやりたいと言って、なんでも文化服装学院の先生方を困らせていたと聞いた。そんな人だったからパパ衣装を作るのは彼女にとって大きな喜びだったようだ。そういえば、浜井君も小林さんもみんな文化出だ。彼女の衣装は浜井衣装とはまったく違って、逆に女性らしい愛らしさがそこかしこにあり、僕自身はそうした愛らしさとは縁遠い方だったので、その意味で刺激的ではあった。‘Heart of GOLD-百年の孤独’では百着以上の衣装を予算が少ないものだから、労力でカバーするとばかりに寝る間も惜しんで作り続けてくれた。まったく感謝してもしたりない。最新作の‘白雪姫’の衣装も久保薗さんだ。そして彼女のすごさは、その徹底したしつこさにある。僕の方でOKというまでは、延々と仕事をし続けてくれる。そしてさらに良くしようとする。こういう態度はうれしいものである。僕自身、納得いくまではやり続ける方だから、それに限りなく付き合ってくれる。

 浜井君がどこかへ行ってしまってから、イッセイ事務所出身の小林和史さんと映像作家、甲斐さやかさんのチーム、アウトセクトが‘シンデレラ’から参加するようになる。小林さんは浜井弘治のイッセイ事務所の先輩に当たるそうで、そこで、確かにイッセイミヤケの方向性を強烈に知ることにもなったのだった。アウトセクトも浜井君と同じく、何をやりだすかが見えないのである。これはきわめて刺激的だった。そして小林さんは久保薗さんと同様に、実にしつこかった。可能な限り、可能性を探ってくる。この点だけは浜井君とは違っていた。浜井君は最初はそうだったが、次第にどこかしらビジネスライクになった。だが、どこまでも食いついてくる人というのは、ものを作っていて、楽しくないわけがない。そう、川口知美さんも実にしつこかった。どこまでも食いついてきた。
 最近で最もこのしつこい感触を味わったのは、アーティストのヤノベケンジさんだったが、小林さんも本当にしつこい。彼らと一番最後にやった作品は‘パンクドンキホーテ’であるが、これも大変な問題もあったけれど、しかし、衣装がジャージ素材と着物素材が混じり、曰く言いがたい衣装となって、魅惑的にたち現れてきた。浜井、アウトセクト・・彼らとやるときは、打ち合わせはあまり意味をなさず、いくら打ち合わせをしてもインスピレーションが沸いてきてしまうのか、それとは違ったものを仮のものとして出してくる。
 そして、実際に着せて動かしてみると、ええ??どうなるのだろう??と思っていたのが、意外にはまっていくのである。これが面白かった。浜井君やアウトセクトは衣装家というよりはアーティストである。アーティストの感覚を持っているから、どうしても同じあることを欲しない。先へ先へと行こうと走り出す。アウトセクトとは来年1月にパパ・タラフマラとして予定していた新作‘Between the TIMES’の衣装をやってもらうことになっていただけに、なくなってしまったのは残念だ。だが、どうか。まあ、またすぐに何か考えて、次の作品づくりに取りかかることになるだろうから、しばしの猶予を、というだけのことではある。いろいろな可能性を奥底に秘めて、その萌芽を待っているのも楽しいもんじゃないか、と思う。
 
 衣装とは、僕は皮膚であり、社会であり、権力であり、その誇示であると考えてきた。誰もが衣装を着ることによって、突然、別人格が入ってきたように感じたことはあるだろう。衣装の起こりは、防寒のためというのもあっただろうが、それ以上に僕は権力誇示にあると思っている。権力は社会階層を作り出す。そして差別を生み出す。分かりやすく目に見える差別である。身体がだらしなくても、衣服を着れば、誰でも偉そうに見えてしまう。こういうことのために衣服は発達してきたのだ。
 だから本来は、誰もが衣服をいかに着るのか?着ないのか?考えるべきと思う。しかし、もはや着ないでいる生活など考えられまい。着ないで外にふらふらと出たら、わいせつ物と見なされたりもする。人間が人間の姿を晒したらわいせつ物になるなどとんでもない社会だと思うが、やっぱり自分自身もできない。寒くてイヤだということもあるけれど、寒くなくても反社会性を持ってしまうから、できやしない。
 衣装家というのは、そうした衣装を逆手にとって、人間の別種の皮膚を作り出していく。これは強く反社会的行為であり、人間の原初性に踏み込んでいく行為だと言えなくもない。だから面白い。
 衣装とはなんとまあ、奥が深いことか。

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パパ・タラフマラ舞台写真より。

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パパ・タラフマラ 舞台写真シリーズ
 シンデレラ


Photo:Hiroshi KOIKE
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九州で開催!
小池博史のトークショーとシンポジウム

本日と明日の2日間、九州にて大いに語ります!

【1】小池博史トークショー「舞台芸術とは何か? パパ・タラフマラの30年を語る」
日時:9月10日(土) 19:30〜
会場:カフェ&ギャラリー・キューブリック
参加費:2,000円(ワンドリンク付・要予約)
予約・問合せ:ブックスキューブリック箱崎店
TEL:092−645−0630/090−6638−0532(宮原)
詳細 はこちら


【2】ハコザキフェスティバルVol.0 ハコザキきんしゃいアカデミー開校『さあ、はじめよう!踊るまちづくり ―
「うごく」を学ぶいちにちー』

日時:9月11日(日) 14:00〜17:00 
会場:九州大学箱崎キャンパス 50周年記念講堂 大ホール
(福岡市東区箱崎6-10-1)
参加費:1,000円
プログラム:  
1部(14:00〜15:00)ライブ『ピュアハート』
2部(15:30〜16:00)デモンストレーション 『ハコのわダンスの作り方』近藤良平
3部(16:00〜17:00)トークセッション『小池博史×齋藤眞人×国友美枝子×坂口光一』
詳細はこちら

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『ユング心理学研究会』にて講義します!

前半はDVDの上映、そして作品について語ります。

タイトル:「パパ・タラフマラの30年と舞台芸術の問題」
日時:9月15日(木)19:00〜21:00(開場18:30)
会場:東京大学駒場キャンパス ファカルティハウス(セミナー室)
アクセス:井の頭線「駒場東大前」駅下車(渋谷より各停2つ目)、正門を入り左折、数10m先のレストランの建物の右側奥に会場のエントランス。
会費:1,500円(含ドリンク)
お問い合わせ:mikio@sf6.so-net.ne.jp(大橋幹夫)
ユング心理学研究会

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小池博史への質問コーナー

Q:パパ・タラフマラの作品の中で、ご自身で一番好きな作品はなんですか?その理由とエピソードなどありましたら、教えて下さい。(みちこ 36才 女性)

Aこの質問はなんとも難しい。常に次を目指しているわけだから、一番好きな作品は次の作品です、としか言いようがありませんが、しかし、パパ・タラフマラとしてはもうすべての作品をやってしまっているわけです。いや、10/1,2の「太郎と踊ろう」企画がありました。ただ、これは25分程度のホントに小作品です。なので、この作品はわきに置いておくのがベターでしょう。

 
そこで、振り返ってみたいのですが、振り返ってみると、多様な作品群があり、どれが好きかは時代との絡みになってくるかなあとは思ったのです。いろいろな意味でターニングポイント的な作品というのはありました。しかしながら、‘どれが好きか’と問われ、改めて考えてみると、本当に困ってしまいます。すべてに愛着はあるし、愛着と同時にそこから逃れたい気持ちもある。だから、単なる‘好き’という感情は持てないのですね。
  作品というのは、その時の全精力と思いの丈を全部、ぶっ込んでいます。‘好き’とか‘嫌い’とか、そうした感情を超えて、どちらかと言えば苦渋に満ちたものであると言った方が正しいと思います。(小池博史)



 質問は、まだまだ受付中です。舞台に関する事でも、それ以外のことでも、小池博史に聞いてみたいと思う事は、なんでもお気軽に下記メールアドレスにお寄せ下さい。

質問送付先:
ookubo@fule-yurara.com
件名:「小池さんへの質問」とご記入ください。
質問の他に、年齢、性別、掲載可のニックネームをお書き添えください。


※すべての質問にお答えできるわけではございませんので、ご了承ください。
※メールマガジンに掲載される可能性があることをご了承いただいたうえで、お送りください。事前に掲載の連絡はいたしません。

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小池博史 公式サイト

パパ・タラフマラ
ファイナルフェスティバル公式サイト
 
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発行・H island編集 大久保有花