今月の表紙 パパ・タラフマラ舞台写真シリーズ『ガリバー&スウィフト』 Photo:Hiroshi KOIKE
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『30年間でパパ・タラフマラが関わった人々シリーズ』
パパ・タラフマラを巡る美術家たち(1)



『パパ・タラフマラ舞台写真シリーズ』
ガリバー&スウィフト(2)

小池博史が語るパパ・タラフマラをめぐる人物論。

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30年間でパパ・タラフマラが関わった人々シリーズvol.5

パパ・タラフマラを巡る美術家たち(1)

 パパ・タラフマラの美術は、単なる美術という概念ではなく、あくまでも総合的な空間として成り立つ。それは1982年に始まった時からそうだった。
 最初から、僕自身、演劇や舞踊がやりたかったわけではなく、まずは見たことのないものを作りたかったのである。だから、演劇好きが台詞劇について語り、踊り好きが踊りについて云々言っているときに、僕はまったくではないが、あまり興味なく、フンフン、でもなあ、と漠然と思っていたのだった。強い思い入れがあったというよりは、特にお芝居の恥ずかしさには辟易させられていたので、どうにもうまくそういう演劇ファン、舞踊ファンには合わせられなかった。それはまったく今でも同じである。芝居という言葉もどうにも好きになれない。

 パパ・タラフマラの最初はタラフマラ劇場と言った。この名称は、メキシコのタラフマラ族から来ている。アルトーがタラフマラについて語っていたので、調べてみると本当に面白い連中だったことが大きかった。近代人には考えられない習俗、幻覚植物ペヨーテの常用、山の民であるが、山をボールを転がしながら延々と走る競技があり、そしてその風景は、アルトーの言によれば、想像を絶する風景であったようである。この「想像を絶する」何かを近代という枠を越えて作り出したかった。ならば、当然、普通の演劇や舞踊にはなるまい。

 始まりの頃の美術を一手に担っていたのは、梅村昇史である。彼もそうだったが、なんだかんだ言って、宗田という最初の頃の片腕だった男がまともなだけで、後は変なやつらばかりであった。変人ばかりと僕が思っていただけか、それとも、皆を変人にさせていったのか、それは知らない。その頃のファウンダーのひとりに、今はサンフランシスコに行ってしまっているが、最後まで席を置いたのが私以外には小川摩利子だけになってしまった。みんな、止めていった。止めていったのは、当然、苦しくなるからであるが、最初からいわゆる演劇がやりたい連中ではなかったために、当然のように方向性は多岐に渡った。たぶん、僕のプレッシャーも大きかったのだろう。ただ、食えていれば、との思いもないではない。30年やってきたが、たいして変化はない。本当に難しいもんだと思う。

 最近は、いろいろな人と話をする。舞台はどうやっても助成や寄付等のサポートがないと成り立たないのだが、それを認識していない人に説明するのはきわめて厄介だなあ、と改めて思った。助成金を単なる人のおこぼれに預かるみたいに考えていたらそうだろう。‘我々の税金’という言い方で、舞台なんかに持っていかれるのはたまらんと考える人もたくさんいるのだが、これに関しては、視点をミクロに持っていったらそうなるだろうと思う。
 精神の自由を確かに謳っても、資本主義社会だと、資本が一番に来る。金があるやつが勝つのは仕方がない。しかし、金が一番ではないことも日本人はこの20年で知ったはずだ。だが、それが身に染みて来ない。それは致し方ないのかも知れない。ギュウギュウにやられるまでは、対岸の火事である。火事が間近に迫って、やっと腰を上げる。それまでは何とかなると思っている。ギリシャの悲劇を見るまでもない。焼け死ぬ直前まで、わからないままだ。

 さて、それはともかく、美術は梅村昇史君だった。武蔵美のまだ、学生だった。僕が大きなアイデアを出し、それを彼が形にしていった。時間だけは無駄なほどあったから、実に地味なこともできた。今思えば、本当にあの頃の、時間の豊かさは何だったのだろうと思えるくらい、時間はゆったりと流れていたが、彼は実に時間に正確で、言ったことはきちんとやるタイプだったのが助かった。舞台の美術だけではない。ポスター、チラシも全部、やっていた。面白く思うのは、今の彼のデザインを見ると、あの頃にはすべて萌芽が見て取れることである。たぶん、私自身も同じなのだろう。彼はポスター、チラシ、舞台セットなどをやりつつ、舞台にも立っていた。とにかくトリックスター的な要素を強く持ち、強く、奇妙な存在感を放っていた。これが小川や前述した宗田あたりとは大きな相違を放って、際だっていたのである。

 その彼に対して、美術手伝いとして入ってきたのが松島誠であった。松島は梅村昇史とは正反対と言ってよく、時間はルーズ、作るものも、キャラクターそのもので、どこか憎めない軽やかさがあった。だから、梅村昇史は柔らかいというよりもカッチリした雰囲気を出し、松島はふんわりとした雰囲気を作っていったのである。梅村昇史オブジェは、初期のどこかしら強引さで、堅い雰囲気とうまく合致していたと思う。
 この相違が次の時代を作ったと言ってもいい。「アレッホ」あたりまでは二人が共存していたが、「パレード」から松島になった。動きは数学的なイメージを強く打ち出したが、同時にオブジェは柔らかさを作った。

 タラフマラ劇場、のちのパパ・タラフマラだが、かなりの初期から美術部が存在した。初期の人形などは小川が作っていたし、特に初期は全員で美術をこしらえていった。そのうちに、どどっと武蔵美の学生たちが入ってくるようになり、松島をはじめとして日大芸術学部の面々も来るようになった。1984年頃からは、かなり本格的な美術部としての稼働が始まったのである。もともと、大学で言えば、一橋と武蔵美ばっかりだったところに、日芸が入ってきて、どんどん美大色が強まった感があった。
 私自身も、そもそも建築を志そうとしたこともあったから、空間造形に対しては強くはじめから意識していたので、基本、美術には全面的に関わっていった。誰もが、舞台美術という意識はないままに、空間造形という意識で皆が皆、臨んでいたと思う。

 そうこうしているうちに、梅村君が抜け、彼はグラフィックデザイナーとして一本立ちしていくことになる。一方、松島は、パパ・タラフマラから一人ぬけ、二人ぬけと男性陣が就職とともに少なくなっていくに従って、どんどん重みを増していくことになった。パフォーマーとしても、完全に下っ端的な役割だったのが、いつの間にか、主役を張るまでになっていく。同時に舞台美術も彼がメインになって動かすようになっていった。ただ、そもそも、梅村昇史とは対照的であって、マネジメントに優れているわけではない。タイムマネジメントも、お金の面でのマネジメントも不得手ではあった。だが、アイデアは面白かったし、もの作りのセンスもたっぷりと持っていた。
 この松島の時代というのがパパ・タラフマラの中期である。ただ、マネジメントが苦手であったから、制作は泣かされてきた。

 松島の大学の後輩で、田染という男が彼のアイデアの具現化に大きく貢献していった。特に機械面だ。技術に優れていた。技術とデザインがかみ合った。松島自身、インダストリアルデザインの出身だから、モーターを始めとして、機械類、動くものが好きであったし、私自身も舞台にあるものを動かしたくて仕方がない方だったので、梅村時代も動くオブジェや音の出るオブジェなども多かったが、松島・田染時代には一気に増えていくことになった。

 そして作品はどんどん大きくなっていった。基盤ができる以上のスピードで作品の巨大化が計られていったが、いかんせん誰もその‘巨大さ’の経験がない。資金面にしても、舞台セットの大きさにしても、オブジェの量にしても、である。ただ、菊地凡平さんが舞台監督で入ってくるようになって以来、甘えるかのように、一気にでかくなっていったのだった。だから、彼には相当大きな負担がのし掛かったと思う。

 こうしてパパ・タラフマラの最初の大きな危機を迎えることになる。マクベスの祟りではないが、1995年の‘城〜マクベス’という作品がそれだったのであった。ここに至るまでに14年が経過し、作品は、未経験のまま巨大化に向かい、わけもわからず、遮二無二突っ走ってきたが、多くの問題点とともに、4名いた制作は全滅。病気で倒れたり、抜けたり、前述の田染も病気になり、とまあ、ほぼ壊滅的な状態へと至っていったのであった。

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パパ・タラフマラ舞台写真より。

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パパ・タラフマラ 舞台写真シリーズ
 ガリバー&スウィフト
(2)

Photo:Hiroshi KOIKE
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パパ・タラフマラ
シンポジウム&オープニングパーティー

 来月から、いよいよファイナルフェスティバルがスタートします。それにさきがけ、シンポジウムと ファイナルフェスティバルの開幕を祝うオープニングイベントを開催いたします。
 シンポジウムでは、パパタラ30年の軌跡を小池博史みずから語ります。パーティーでは、パパタラパフォーマーによるパフォーマンスや、お楽しみビンゴ大会など盛りだくさんの内容です。
 奮ってご参加下さい!

シンポジウムタイトル
「日本の舞台芸術の行方〜パパ・タラフマラの解散から」

【日時】12月3日(土) 15:30〜19:00
【出演】小池博史、小沼純一(音楽評論家)、天童荒太(作家)
【会場】早稲田大学戸山キャンパス 38AV教室
【参加費】無料
【スケジュール】
15:30〜 開会宣言、説明
15:35〜  第一部 「パパ・タラフマラとは?」
     小池博史、小沼純一氏(音楽評論家)
     ※DVDを使用してのパパ・タラフマラの軌跡と作品解説
17:00  休憩(10分)
17:10〜  第二部 「日本のアートシーンの行方」
     小池博史、小沼純一氏、天童荒太氏(小説家)
18:20〜 質疑応答
19:00  閉会

※早稲田学生以外の聴講可能となります。どうぞお気軽にご参加下さい。
※予約がなくても入場できますが、定員なった場合はご予約の方優先になります。


ファイナルフェスティバルオープニングパーティー
【日時】12月3日(土) 19:30〜
【場所】カフェ・ラグーン (早稲田戸山キャンパスより徒歩10分)
東京都新宿区西早稲田3-15-3 パラディア西早稲田B1
TEL:03-5155-7641
【参加費】一般3900円 学生3500円(要予約)
【アクセス】
・副都心線西早稲田駅 徒歩5分
・JR高田馬場駅 早稲田口 徒歩9分
・地下鉄東西線高田馬場駅 徒歩8分
・地下鉄東西線早稲田駅 3B出口 徒歩9分)

【申込み方法】 シンポジウム、パーティー参加希望のかたは、下記フォームよりお申し込み下さい。
http://ws.formzu.net/fgen/S31034496/
【お問合せ】 03-33385-2066 (パパフェス実行委員事務局イベント担当)

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パパタラ ファイナルフェスティバル
チケット絶賛発売中!

 パパ・タラフマラを観劇できる最後のチャンスです。いよいよ来月からスタートします。歴史に立ち会いましょう!
  セット券はバラバラに買うより1200円もお得(S席、一般の場合)な上、特典でパパタラファン必読の本や割引券も付いてます。

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三人姉妹

世界25都市以上で上演を果たした大人気作。
お馴染みチェーホフの「三人姉妹」を、小池博史がナンセンスに、シニカルに、体のパフォーマンスとして、誰でも楽しめるエンターテイメント作品に作り上げた。斬新な切り口でお届けする爽快トラジック・コメディ。
作・演出・振付:小池博史
出演:白井さち子 あらた真生 橋本礼
<公演日>2011年12月20日(火)〜22日(木)
●12月20日(火):19:00〜  
●21日(水):19:00〜
●22日(木):19:00〜
上演時間約60分。(休憩なし)
<料金>全席指定席
前売一般=3,500円、学生・65歳以上・身障者割引=3,000円 
当日券 各券の500円増 
<会場>北沢タウンホール(北沢区民会館)
−下北沢駅下車南口より徒歩4分

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島-island

パパタラ最小規模作品、5年ぶりの再演。
それぞれの『島』抱えた男女の、最もシンプルで、最も美しい作品。禁欲的なまでにシンプルな舞台に男と女がそれぞれの幻影を描き、物語を生み出していく。
作・演出・振付:小池博史
出演:小川摩利子 松島誠
<公演日>2012年1月13日(金)〜15日(日)
●1日13日(金):19:30〜
●14日(土):13:00〜 ,18:00〜
●15日(日):13:00〜 ,18:00〜
上演時間約60分。(休憩なし)
<料金>全席指定席
前売一般=3,500円、学生・65歳以上・身障者割引=3,000円 当日券 各券の500円増 
<会場>森下スタジオ Cスタジオ
−森下駅下車A6出口より徒歩5分

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SHIP IN A VIEW

毎年再演の声がかかるパパタラ不朽の名作。
1960年代、日本が高度経済成長にさしかかってきた頃、様々な産業が混沌として並び立っていた工業港都市をイメージした作品。海をはじめとする豊かな自然と、林立する工場といった人工的なものとでひしめく町に育った少年にとって、「船」は、その町と外の世界をつなぐもの、外の世界への出口でもあった。
作・演出・振付:小池博史
出演:小川摩利子 松島誠 白井さち子 関口満紀枝 あらた真生 池野拓哉 菊地理恵 橋本礼 南波冴 荒木亜矢子 石原夏実 / 縫原弘子 ヤン・ツィ・クック
<公演日>2012年1月27日(金)〜29日(日)
●1月27日(金):19:30〜  
●28日(土):13:00〜 /18:00〜  
●29日(日):13:00〜
上演時間約90分。(休憩なし)
<料金>全席指定席
前売:
S席=8,700円(パパ・タラフマラの本(仮)〈青幻舎より刊行〉付き)
A席 一般=5,500円、学生・65歳以上・身障者割引=4,800円
B席 一般=4,200円、学生・65歳以上・身障者割引=3,800円
当日券 各券の500円増 
<会場>シアター1010(足立区芸術劇場)
−北千住駅 西口直結

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パパ・タラフマラの白雪姫

パパタラ初の全国ツアー作品!子供も大人も楽しめる童話シリーズ。
パパ・タラフマラ童話シリーズ第3弾。童話という誰にも知られた素材をこれまでに無い手法で全く新しく作り変え、子供も大人も楽しめる突き抜けた娯楽作品へと昇華。ひとつの神話的世界を舞台上に現出させることで、老若男女問わず多くの観客を魅了してきました。
作・演出・振付:小池博史
出演:あらた真生 白井さち子 菊地理恵 橋本礼 南波冴 荒木亜矢子 石原夏実 小谷野哲郎 アセップ・へンドラジャッド
<公演日>2012年3月29日(木)〜31日(土)
●3月29日(木):19:30〜 
●30日(金):13:00〜 ,19:30〜 
●31日(土):13:00〜 ,17:30〜
<料金>全席指定席
前売一般=4,500円 学生・65歳以上・身障者割引=3,800円
当日券 各券の500円増 
<会場>北沢タウンホール(北沢区民会館)

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パパフェス実行委員会事務局だけのお得なセット券もあります!
全演目(一般席、S席【パパブック付き】) 
+雑誌「風の旅人」最新号プレゼント
+パパタラ ラスト音楽イベント割引券?
+パパタラDVDBOX 割引券
※セット券はパパフェス事務局でのみの取扱となります。
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【お問合せ】TEL:03-3385-2066 (ファイナルフェスティバル実行委員会事務局)

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小池博史 公式サイト

パパ・タラフマラ
ファイナルフェスティバル公式サイト
 
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発行・H island編集 大久保有花