今月の表紙 パパ・タラフマラ舞台写真シリーズ『三人姉妹』 Photo:Hiroshi KOIKE
*このメールはインターネットに接続した状態でお読み下さい。



『30年間でパパ・タラフマラが関わった人々シリーズ』
パパ・タラフマラを巡る美術家たち(2)



『パパ・タラフマラ舞台写真シリーズ』
三人姉妹

小池博史が語るパパ・タラフマラをめぐる人物論。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
30年間でパパ・タラフマラが関わった人々シリーズvol.6

パパ・タラフマラを巡る美術家たち(2)

 パパ・タラフマラには多くの美術家が関わってきた。前回は「城〜マクベス」までを書いてきた。ひとり、抜かしてしまった人物がいる。「城〜マクベス」から参加した田中真聡である。彼は、「白雪姫」までずっと関わってきているから、美術では松島に次いで長いことになる。

 田中真聡は美術家というよりも、オブジェ作家である。とはいえ、「Birds on Board」「ストリートオブクロコダイル計画2」「白雪姫」と、全体美術も担当してもらったが、それでもやはりオブジェ作家だと思う。キネティックオブジェ、すなわち動くオブジェを作る人で、彼のオブジェを見ると強く幻惑されるところがある。つまり、キネティックオブジェの延長線上に舞台美術が存在しているのである。松島にしても、元々、インダストリアルデザインの出身であり、きわめて動きものが好きな男だから、ちょうどパパ・タラフマラの舞台にはピタリとはまった。やはり‘動く’ということがパパ・タラフマラの舞台では求められる。

 松島と同じ頃から、田染と結婚してしまった福島直美が渋くいい味を出すオブジェを作っていた。さほど目立つことをやっていたわけではないが、欠かせない存在として、松島の持つ、良くも悪くも軽重浮薄なところを補助し、土台を支えたひとりだった。1990年ころから10年以上やっていたのが宮木亜矢。最初は箸にも棒にもかからないという存在だった。時間にはルーズ、縮尺もちゃんと取れない・・。しかし、次第に腕を上げていった。見事なほどの着実な成長があったのである。2005年の‘Heart of GOLD〜百年の孤独’では、あの巨大アリを作り上げるまでになった。それまでに人形を作ってもらうことが多く、最初は??だった人形が、年数を経るごとに良くなり、すばらしい人形を作るまでに腕を上げていったのである。彼女はいかにも、人間の成長記を見るようで不思議である。もう40歳を越えただろうが、見た目は子供のままだ。

 光のオブジェというと森脇裕之。1996年の‘草迷宮’から2005年の‘Heart of GOLD〜百年の孤独’まで、相当な作品数で光オブジェを提供してもらった。私は裸電球を使うことがよくある。それは、たった一個の電球が場を簡単に変えてしまうからである。「島〜Island」はただ一灯の電球が降りてくるだけであるが、電球が場を異次元へと一変させる。これは森脇アイデアではないが、光は簡単に場を異空間にしてしまうのである。だからおもしろい。光の威力絶大である。‘Ship in a View’は、光の威力が場を大きく引き締めた作品だと思う。いかに光が劇的なものか、強く認識できた作品だった。同じように大活躍したのが、光るボックスを用いた‘WD’であり、‘Heart of GOLD〜百年の孤独’である。この作品は光る衣装、光る棺桶、光る人形と光源の仕込まれたオブジェや衣装が大活躍をした。光のすごさを味わい尽くした感じであった。

 2001年に‘WD’の第三章にあたる‘WDーSo What?’で美術をやってもらったのが、会田誠。会田のねじくれて、フェティッシュな感性がおもしろいと思っていた。彼もまた20世紀末の状態そのものを体現化させたような男で、そのエッセンスを舞台上に現出させた。巨大うんこと巨大包丁が舞台上空で、チェイシングしているという図である。何とも言えず、快感であった。うんこと包丁が追いかけっこをしているが、絶対に互いに追いつかない。イメージはうんこと包丁、汚物とナイフで、しかし、決してそれらは互いに傷つけ合わず、うんこがヤバイにおいを振りまき、そして頭上では常に危機的状況であることを煽っていく、そういう役割を果たした。
 ‘WD’では多くのアーティストが絡んだ。会田、田中、森脇、松島、宮木、そして佐々木成明。佐々木君とは彼が武蔵美の学生の頃からのつきあいがあり、もう27年くらいにもなろうか。新進気鋭の映像作家として少しずつ頭角を現していた。そこで舞台の作品映像を撮ってもらっていた。今見ても佐々木映像は良い。「わかっている」、と言っていいだろう。これが以外に難しい。こちらの意図をきちんと汲んでくれる映像作家はそうそういるものじゃないのだから。風貌含めて都会人だと思いこんでいたが、知り合ってから10年くらいしてから、彼がど田舎の出身であることを知った。広島の山の中、八墓村のロケ地だったところだそうだ。そこで腑に落ちた。妙なテクニックだけに走っていかないところである。そのうち、舞台上でも映像を使うようになっていった。ただ、いつもネックは資金面。映像だけではないが、資金は本当に厳しかった。

 ‘Birds on Board’では韓国からキムヨンジンが加わった。彼はインスタレーション型映像作家であるが、非常におもしろかった。あの幻想空間、幻視空間に持っていく手法はきわめて斬新であろう。ただし、一見、新しさは感じない。アナログ手法のように感じられる。だが、空間と時間が一体化した作品群は、映像を生き物に変えるのである。

 同じく海外から、‘Heart of GOLD〜百年の孤独’でブラジルからレイチェル・ロザレンが参加。彼女と最初に打ち合わせをしたのは、サンパウロだったと思うが、具体的に作品の打ち合わせに入ったのは中野のスタバで、町中の建物だのさまざまな建築物などに投影された、男女の性行為の映像を見せられたところからだった。作品と言えば作品だが、人の目はあるし、性行為中の局部アップが延々と続くようなところもあって、周りの目が気が気でなかった。それもブラジル人の女性と日本の男が一所懸命、スタバで性行為の様子を映像で見ているのである。これ、どうやって撮影したの?と聞くと、友達にやってもらった、とのこと。ブラジルはなんとまあ、凄いところか、と思った。この会話といい、他者から見たら妙な露出狂の変態男女ふたりということになるだろう。まあ、それはともかく、おもしろかった。彼女の英語はブラジルなまりが強烈にありつつも、やたらと速いから聞き取れない、これがなかなか大変。ただ、生理的ダイナミズムがあって、こういう力はなかなか男性では難しいのだなあ、と思ったのである。

 同じく‘Heart of GOLD〜百年の孤独’の第一部で参加し、他にも‘ストリートオブクロコダイル・計画1’‘ストリートオブクロコダイル・計画2’で参加していたのが、網代將登。佐々木成明の武蔵美の教え子で、学生の頃から絡んでいた。少しずつおもしろくなってきたが、アート活動は辞めてしまっているようだ。残念でならない。

 ‘ガリバー&スウィフト’で、まさにタッグを組むという形でやったのが、ヤノベケンジであった。本当におもしろかった。アーティストのプライドを見せつけられて、とことん僕もやる気が出たのだった。アーティストによっては、どうしても資金面でのことを細かく言う人がいるし、それはそれで仕方がない面もあるが、あまり細かく言われると本当にがっかりする。どんなに能力があっても、じゃあやらなくて良いよ、と言いたくなる。それを我慢するのはフラストレーションが溜まるのである。そして、どうにも楽しい関係性ではなくなってくる。ヤノベさんの場合は、京都造形芸術大学のウルトラファクトリーという後ろ盾があったこともあるが、非常にやりやすかった。こちらが心配して、予算のことを言っても、意に介さず、やりたいことをとことんやった。こちらの意図を汲んで、それを何倍にもして返して来ようとする。楽しくならないわけがなかった。

 スウィフトシリーズ第二段はインドネシアで制作し、インドネシアのアーティストが二人、舞台美術で参加。ジョンペットとアンディである。ジョンペットもアンディもどちらも美大出ではない。だが、かなり活躍している美術家だ。いろいろなオブジェが出てきたが、やっぱり僕には色の使い方が一番おもしろく、アナログ的手法もまた興味深かった。色は基本カラフル。そしていろいろなアイデアを次々と出して来る。全身全霊で作品に向かおうとする意欲があふれていて、清々しかった。

 ‘パンク・ドンキホーテ’ではトラフ建築設計事務所と一緒にやった。建築家とは初めての仕事であったが、建築家とはこういうものの考え方をするのか、ということを知ってとてもおもしろかった。構築性をもって物事を進めるという点である。あれほど、準備段階で、模型と緻密な設計図が活躍した舞台作品はなかった。家型の背景がどんどん崩れていって、パーツに変わり、まるで姿を変えて、徐々に消えてしまうのである。ただ、一方では舞台と建築との違いも浮かび上がり、一時的な舞台作品を遙かに長い時間を保たせる建築物的発想でやっても難しいことも強く認識できた作品だった。

 最近では森聖一郎が活躍した。まだ若い美術家で、時間が読めないところがあるが、今後に期待できると思っている。そのほか、バリのイ・ワヤン・タングーさんという国宝級の仮面作家には、何作品にもわたって仮面を作っていただいた。これがすばらしい。この仮面がパパ・タラフマラの第九期作品群に果たした役割は絶大だったと言ってよいだろう。そのくらいすばらしい仮面群である。

 パパ・タラフマラを通り過ぎていった美術家たちはたくさんいるが、どの人たちの仕事ひとつひとつをとっても、失敗と言えるものはなく、きわめて高いクオリティとオリジナリティを持っている。東京都現代美術館のチーフキュレーターの長谷川祐子さんは、「私ならば、ひとつの作品で10の展示会が可能になると思う」と、この前対談したときに言ってくれたほどの作品群である。しかし、ほとんどの作品のオブジェは泣く泣く捨てざるを得なかった。置き場がなくなってくるのである。そのとき、美術家たちは皆、ガックリと肩を落とす。しかし、どうしようもない。なにか方法はないものかなあ、と考えるのだが、妙案は浮かばない。誰か、救ってくれる人はいないものだろうか。

→TOPへ

 

パパ・タラフマラ舞台写真より。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 







 →TOPへ

パパ・タラフマラ 舞台写真シリーズ
 三人姉妹


Photo:Hiroshi KOIKE
写真をクリックすると、大きなサイズで見られます。

最新情報のお知らせや、多様な仕事のあれこれを紹介。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

田口ランディ × 小池博史トーク
「カラダの見つけ方」

 インターネットで生放送しているユーストリーム企画「小池パパとタラタラ飲む会」の次回ゲストは、なんと!作家の田口ランディさんです。どんな話が飛び出すか、興味津々ですね。乞うご期待!

日時: 12月15日(木) 19:30〜(19:00開場) 
会場:六次元 →地図
(東京都杉並区上荻1-10-3 2F TEL:03-3393-3539)
参加費:2000円(ドリンク付)※観覧予約受付中。
※観覧をご希望の方は「お名前」、「参加人数」、「お電話番号」を明記の上、rokujigen_ogikubo@yahoo.co.jp  までご連絡ください。

【生中継のインターネット観覧はこちらから↓】
【UST】http://www.ustream.tv/channel/pappatara-tv
※本イベントもユーストリームでの生放送を実施します。
※通常の放送時間と異なりますのでご注意ください。

→TOPへ


パパタラ ファイナルフェスティバル
『三人姉妹』で幕開け

 いよいよ20日から公演が始まります。最初の作品は『三人姉妹』。命を削るほどの激しいパフォーマンスを目の当たりにできるのは、これが最後です。目に焼き付けましょう!
 ちなみに、11月に開催されたタイでの公演も大好評で、バンコクポストに記事(公演インタビュー)も掲載されました。
  セット券を購入できるのは、三人姉妹が始まる前までです。バラバラに買うより1200円もお得(S席、一般の場合)な上、特典でパパタラファン必読の本や割引券も付いてます。後悔のないよう、お早めにご予約を。

ーーーーーーーーーーーーーーーー
三人姉妹

世界25カ国以上で上演を果たした大人気作。
お馴染みチェーホフの「三人姉妹」を、小池博史がナンセンスに、シニカルに、体のパフォーマンスとして、誰でも楽しめるエンターテイメント作品に作り上げた。斬新な切り口でお届けする爽快トラジック・コメディ。
作・演出・振付:小池博史
出演:白井さち子 あらた真生 橋本礼
<公演日>2011年12月20日(火)〜22日(木)
●12月20日(火):19:00〜  
●21日(水):19:00〜
●22日(木):19:00〜
上演時間約60分。(休憩なし)
<料金>全席指定席
前売一般=3,500円、学生・65歳以上・身障者割引=3,000円 
当日券 各券の500円増 
<会場>北沢タウンホール(北沢区民会館)
- 下北沢駅下車南口より徒歩4分

チケット予約ページへ

ーーーーーーーーーーーーーーーー
島-island

パパタラ最小規模作品、5年ぶりの再演。
それぞれの『島』抱えた男女の、最もシンプルで、最も美しい作品。禁欲的なまでにシンプルな舞台に男と女がそれぞれの幻影を描き、物語を生み出していく。
作・演出・振付:小池博史
出演:小川摩利子 松島誠
<公演日>2012年1月13日(金)〜15日(日)
●1日13日(金):19:30〜
●14日(土):13:00〜 ,18:00〜
●15日(日):13:00〜 ,18:00〜
上演時間約60分。(休憩なし)
<料金>全席指定席
前売一般=3,500円、学生・65歳以上・身障者割引=3,000円 当日券 各券の500円増 
<会場>森下スタジオ Cスタジオ
- 森下駅下車A6出口より徒歩5分

チケット予約ページへ

ーーーーーーーーーーーーーーーー
SHIP IN A VIEW

毎年再演の声がかかるパパタラ不朽の名作。
1960年代、日本が高度経済成長にさしかかってきた頃、様々な産業が混沌として並び立っていた工業港都市をイメージした作品。海をはじめとする豊かな自然と、林立する工場といった人工的なものとでひしめく町に育った少年にとって、「船」は、その町と外の世界をつなぐもの、外の世界への出口でもあった。
作・演出・振付:小池博史
出演:小川摩利子 松島誠 白井さち子 関口満紀枝 あらた真生 池野拓哉 菊地理恵 橋本礼 南波冴 荒木亜矢子 石原夏実 / 縫原弘子 ヤン・ツィ・クック
<公演日>2012年1月27日(金)〜29日(日)
●1月27日(金):19:30〜  
●28日(土):13:00〜 /18:00〜  
●29日(日):13:00〜
上演時間約90分。(休憩なし)
<料金>全席指定席
前売:
S席=8,700円(パパ・タラフマラの本(仮)〈青幻舎より刊行〉付き)
A席 一般=5,500円、学生・65歳以上・身障者割引=4,800円
B席 一般=4,200円、学生・65歳以上・身障者割引=3,800円
当日券 各券の500円増 
<会場>シアター1010(足立区芸術劇場)
- 北千住駅 西口直結

チケット予約ページへ

ーーーーーーーーーーーーーーーー
パパ・タラフマラの白雪姫

パパタラ初の全国ツアー作品!子供も大人も楽しめる童話シリーズ。
パパ・タラフマラ童話シリーズ第3弾。童話という誰にも知られた素材をこれまでに無い手法で全く新しく作り変え、子供も大人も楽しめる突き抜けた娯楽作品へと昇華。ひとつの神話的世界を舞台上に現出させることで、老若男女問わず多くの観客を魅了してきました。
作・演出・振付:小池博史
出演:あらた真生 白井さち子 菊地理恵 橋本礼 南波冴 荒木亜矢子 石原夏実 小谷野哲郎 アセップ・へンドラジャッド
<公演日>2012年3月29日(木)〜31日(土)
●3月29日(木):19:30〜 
●30日(金):13:00〜 ,19:30〜 
●31日(土):13:00〜 ,17:30〜
<料金>全席指定席
前売一般=4,500円 学生・65歳以上・身障者割引=3,800円
当日券 各券の500円増 
<会場>北沢タウンホール(北沢区民会館)

チケット予約ページへ

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
パパフェス実行委員会事務局だけのお得なセット券もあります!
全演目(一般席、S席【パパブック付き】) 
+雑誌「風の旅人」最新号プレゼント
+パパタラ ラスト音楽イベント割引券?
+パパタラDVDBOX 割引券
※セット券はパパフェス事務局でのみの取扱となります。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

【お問合せ】TEL:03-3385-2066 (ファイナルフェスティバル実行委員会事務局)

→TOPへ


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

小池博史 公式サイト

パパ・タラフマラ
ファイナルフェスティバル公式サイト
 
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
Copyright(C) 2011Hiroshi KOIKE,All Rights Reserved.
毎月10日発行
 ご意見、ご感想、ご質問をお寄せ下さい。 →ookubo@fule-yurara.com
お友達にすすめてみよう!  登録・解除 →こちら 
発行・H island編集 大久保有花