今月の表紙 パパ・タラフマラ舞台写真シリーズ『島〜Island』 Photo:Hiroshi KOIKE
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「島〜Island」と「Ship in a View」



『パパ・タラフマラ舞台写真シリーズ』
島〜Island

小池博史が語るパパ・タラフマラ作品について

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「島〜Island」と「Ship in a View」

  今までどんな人たちがパパ・タラフマラに関わってきたかについて書いてきたが、フェスティバル真っ最中なので、1月に行う2作品について書いておきたい。

  「Ship in a View」の原型は「船を見る」という作品で、名称を「Ship in a View」と変え、改作したのは2002年にヴェネチアビエンナーレからの招聘があったからだ。海外での公演をしやすくするためである。骨格はあまり変わっていないが、多々、小さな変更点はある。
 「島〜Island」も「船を見る」もどちらも、1997年の制作。「船を見る」は4月に銀座セゾン劇場で発表した。懐かしく思い出すのは、実はセゾン劇場とは最低3作品は一緒にやりましょうということで始めたのだった。だが、銀座セゾンは傾き、結局のところ、1作品のみしか制作できず、劇場は名称を変えて、商業劇場へと変わっていった。これはパパ・タラフマラにとってはとても痛かった。
  「島〜Island」は台湾の国立芸術学院フェスティバルシアターで10月に発表。香港人で台湾在住のエージェントに招聘されての公演だったが、これはパパ・タラフマラとしての初の海外プレミアでもあった。その後、海外プレミア作品は全部で10作品近くに上ると思うが、これが最初である。

 もともと「島〜Island」は横浜ランドマークホールの企画、「島〜No Wing Bird on the Island」から派生している。ドイツ人メディアアーティストのインゴ・ギュンターと中国人の作家、音楽家であるリューソーラ、それに私が組んでの公演として、「島〜No Wing Bird on the Island」がその年の12月に企画されたのだが、そのための骨格作りの趣があった。また、「島〜No Wing Bird on the Island」は、グラフィックデザイナーの葛西薫さんとの最初の仕事でもあった。人の影のような、島影のような不思議な文様が真ん中にあった秀逸なデザインであった。思えば、葛西さん、最初に、「島」の直前の作品、「Ship in a View」の稽古を見に、今回の「島〜Island」の公演場所でもある森下スタジオのCスタジオに来たことを懐かしく思い出す。
 両作品ともパパ・タラフマラをはじめてから15年が経過し、いろいろと思い悩みながら作った作品ではあった。

 まず、「島〜Island」。この作品は、できる限りシンプルにして、それまでに力を付けてきたふたりのパフォーマー、小川摩利子、松島誠のための作品として意図したのである。ふたりとも30代も半ばになってきていた。ここで一気に彼らの力を伸ばしたいと思った。それも、できる限り最小限の単位で、オブジェもなにもない真っ黒の空間、音楽もミニマムにし、まさに空間と時間と身体のみにすべてを絞った作品として作りたい欲求が私に芽生えていた。表現として、なんと言っても重要だったのは、声と動きだけで、空間に強い有機性を持たせ、リズムを作り出すことである。これができれば、成功だった。たったふたりだけの「島」。それによって、ふたりはさらに伸びていくだろうと思った。

 人間は、結局、独立した島のような存在である。みんな、外側には境界線を持つ。人を受け入れることも含め、強い意志が働く。そうして生きているのが人間なのだ。その人間の境界線に焦点を当てたかった。ふたりだけだから、焦点が絞りやすく、見ている人たちも見やすいだろうと思った。
 ガルシア・マルケスの「年老いた羽根の生えた老人」という短編小説から少しのアイデアをもらった。と言っても、このような、世間からはずれた存在の孤独を描きたいと思った、といった程度のことではある。それに私自身のストーリーを加え、混沌とした女性と孤独な男との間のコミュニケーションとディスコミュニケーションの境界線を描いていったのだった。
 悲哀と哀切、とでも言ったら良いような作品に仕上がったのだった。思えば、台湾での初演後に、初老のアメリカ人舞踊教師夫婦がやってきて、私たちの人生のようだった、と言って、強く手を握りしめられた。これがとても励みになった。
 この作品を作ることで私自身が考えてきた有機体としての時空間を身体を使って作り出すことができたと思っている。


 「Ship in a View」は、「島〜Island」の直前に制作した作品だ。「Ship」があってこそ、「島」に移行できたと言えるだろう。
 「Ship in a View」という作品は私自身の原点を見つめる役割を果たしたのである。それまでにさまざまな種類の作品制作をし、本公演の1年半前には「城〜マクベス」を作ったが、通常通りのマクベスの祟りの如く、まずい事態がたくさんパパ・タラフマラ内に起こってしまっていた。そのすぐ後には、同じく泉鏡花の「草迷宮」を制作して、再び亡霊に挑んだが、どうにも澱んだ空気が取れず、一度、素に戻して、私自身をもう一度、見つめなおしたくなったのだった。
 「Ship in a View」は私の故郷の記憶を元にして、制作している。だから、登場人物には私なりの解釈があるので、実際とはずいぶん違うかも知れないが、すべて、記憶の中のモデルがいるのである。記憶の中に住む人物たちは、あまり良い人ではない。みんなひと癖もふた癖もあって、自己主張が強く、激しい人物たちである。それが浜辺や学校や原っぱや町中や、さまざまな場所で朝、昼、夜を送る時間を送る。その哀切を描きたかった。

 少年の頃の私にとって、故郷は、非常に閉息的な場であった。この閉息性がいやでいやでたまらず、一刻も早く、そこを脱したいと願った。故郷は海が広がり、海が終わると山が始まり、ぐるりと山が囲んで、再び海になる。つまり、一個の宇宙体のようにして街は存在していた。だから、閉じられた空間から向こう側を夢見たとき、どうしても船に目がいった。海の向こうには希望があった。閉塞空間を一刻も早く脱して、海の向こうへ行きたかった。しかし、そこには現実があって、混沌とした人々による小さな破壊活動があったのである。

 もちろん現実は、記憶の中で歪められているだろう。寺山修司が起こらなかったことも事実であると言ったような気がするが、記憶の中では事実が再生産される。これが面白い。まったく実際の人物たちとは異なってきているかもしれない。よく分からなくなってくるのである。勝手に人物が作品創作仮定で、変容し、勝手な像が記憶として染み込んでいく。最初に意図した記憶の中の人物がまるで様相を変えて、不思議な雰囲気を纏って、他の人と一体化してしまっていたりするような事も起きているだろうと思う。しかし、事実を描きたいわけではない。あくまでも、悲哀と哀切である。
 人間の悲しみの所在を描きたかったのである。


 「島〜Island」と「Ship in a View」。1月に、この二作品。ご覧になって頂きたい。「島〜Island」も多くの国で公演してきたが、「Ship in a View」は世界の一流劇場を歩き続けてきた。面白いのは、小さな作品で公演をすれば、どさ回り的感覚を味わうが、「Ship in a View」のような作品だと、厚遇される。この差は面白い。もちろん作家としては、そんなことはどうでも良いことだ。ただ、当然のように厚遇された環境の方が周辺からは不満はでにくい。本当にカンパニーマネジメントは難しいのである。

 さて、それはとにかく、3日後から「島〜Island」公演が始まる。今、30代半ばだったふたりのパフォーマーは50歳近くなった。稽古を見ていて、本当に年齢を経ることの素晴らしさを実感している。昔の作品と同じ作品とは思えないくらいの哀切が強く滲み出ている。ふたりとも良い人生を歩んできたのだろうと思う。
 ぜひ、ご覧あれ。強く記憶に残るだろう。

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パパ・タラフマラ舞台写真より。

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パパ・タラフマラ 舞台写真シリーズ
 島〜Island


Photo:Hiroshi KOIKE
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パパタラ ファイナルフェスティバル
『島〜Island』『Ship in a View』1月上演!

  『島〜Island』は、ペテランお二人による熟成されたパフォーマンス。シンプルな小作品ゆえにじっくりと腰をすえて作品世界に浸れます。 『Ship in a View』は、舞台空間すべてが、叙情的な美しさに満たされる大規模作品。
  作品の良さはそれぞれ異なるので、両作品を観る事を強くオススメいたします!


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島-island

パパタラ最小規模作品、5年ぶりの再演。
それぞれの『島』抱えた男女の、最もシンプルで、最も美しい作品。禁欲的なまでにシンプルな舞台に男と女がそれぞれの幻影を描き、物語を生み出していく。
作・演出・振付:小池博史
出演:小川摩利子 松島誠
<公演日>2012年1月13日(金)〜15日(日)
●1日13日(金):19:30〜
●14日(土):13:00〜★ ,18:00〜★
●15日(日):13:00〜★,18:00〜
上演時間約60分。(休憩なし)
<料金>全席指定席
前売一般=3,500円、学生・65歳以上・身障者割引=3,000円 当日券 各券の500円増 
<会場>森下スタジオ Cスタジオ
- 森下駅下車A6出口より徒歩5分

★…終演後アフタートークあり
【14日(土)】13:00〜 山下洋輔 (ジャズピアニスト)
18:00〜 佐伯 剛 (風の旅人 編集長)
【15日(日)】13:00〜 片山正夫 (公益財団法人セゾン文化財団 理事)

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SHIP IN A VIEW

毎年再演の声がかかるパパタラ不朽の名作。
1960年代、日本が高度経済成長にさしかかってきた頃、様々な産業が混沌として並び立っていた工業港都市をイメージした作品。海をはじめとする豊かな自然と、林立する工場といった人工的なものとでひしめく町に育った少年にとって、「船」は、その町と外の世界をつなぐもの、外の世界への出口でもあった。
作・演出・振付:小池博史
出演:小川摩利子 松島誠 白井さち子 関口満紀枝 あらた真生 池野拓哉 菊地理恵 橋本礼 南波冴 荒木亜矢子 石原夏実 / 縫原弘子 ヤン・ツィ・クック
<公演日>2012年1月27日(金)〜29日(日)
●1月27日(金):19:30〜★
●28日(土):13:00〜★/18:00〜★  
●29日(日):13:00〜★
上演時間約90分。(休憩なし)
<料金>全席指定席
前売:
S席=8,700円(パパ・タラフマラの本「ロング グッドバイ パパ・タラフマラとその時代」〈青幻舎より刊行〉付き)
A席 一般=5,500円、学生・65歳以上・身障者割引=4,800円
B席 一般=4,200円、学生・65歳以上・身障者割引=3,800円
当日券 各券の500円増 
<会場>シアター1010(足立区芸術劇場)
- 北千住駅 西口直結

★… 終演後アフタートークあり
【27日(金)】港千尋(写真家・著述家)
【28日(土)】13:00〜 葛西薫 (アートディレクター)
18:00〜 是枝裕和(映画監督)
【29日(日)】天童荒太 (作家)


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パパ・タラフマラの白雪姫

パパタラ初の全国ツアー作品!子供も大人も楽しめる童話シリーズ。
パパ・タラフマラ童話シリーズ第3弾。童話という誰にも知られた素材をこれまでに無い手法で全く新しく作り変え、子供も大人も楽しめる突き抜けた娯楽作品へと昇華。ひとつの神話的世界を舞台上に現出させることで、老若男女問わず多くの観客を魅了してきました。
作・演出・振付:小池博史
出演:あらた真生 白井さち子 菊地理恵 橋本礼 南波冴 荒木亜矢子 石原夏実 小谷野哲郎 アセップ・へンドラジャッド
<公演日>2012年3月29日(木)〜31日(土)
●3月29日(木):19:30〜 
●30日(金):13:00〜 ,19:30〜★ 
●31日(土):13:00〜★ ,17:30〜
<料金>全席指定席
前売一般=4,500円 学生・65歳以上・身障者割引=3,800円
当日券 各券の500円増 
<会場>北沢タウンホール(北沢区民会館)

★…終演後アフタートークあり
【30日(金)】19:30〜 トラフ建築設計事務所
【31日(土)】13:00〜 萩尾瞳(映画演劇評論家)

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【お問合せ】TEL:03-3385-2066 (ファイナルフェスティバル実行委員会事務局)

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小池博史 公式サイト

パパ・タラフマラ
ファイナルフェスティバル公式サイト
 
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発行・H island編集 大久保有花